複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【人気キャラ投票】 ( No.452 )
日時: 2013/08/19 15:53
名前: ナル姫 (ID: DLaQsb6.)  

伊達軍は予定通り本宮に入り、三月には布陣した。政宗、成実、左月、その他各々の伊達家に直接的に仕える家の当主が各々の陣の大将となっていた。

「——……」

大きな橋の向こうに、蠢く影。見ただけでも飛んでもない数の人々。その様子は蟻の行列が蠢いている姿と似通っており、何となく気分が害される。

「政宗様、全軍の布陣が済んだようです」
「…分かった。おい、政哉」
「は、はい!」
「最後の最後まで槍の練習はしておけ。戦が始まるまで一刻もないぞ」

言いながら政宗は兜を被る。鎧を着る主の姿は、小さいながらに頼もしい。気付けば、兄の目は少年から見てそう遠くもない高さにあった。そんなことを考えたが——今は戦に集中しなければいけない。これから始まるのは、本物の命の取り合いだ。政宗にはい、と返事をして少年は主から少し離れた場所で練習を始めた。
少しすると相手も布陣を終えたようで人の動きが見えなくなった。

「…終わったようですね」
「だな」

小十郎の声に政宗が答える。

「…佳孝」
「は、はい!」
「ここ数日練習してたな」

そう言いながら政宗は法螺貝を指差す。

「は…はい…」
「吹け」
「え…その…上手く出来るか…」
「いいから」

佳孝は不安そうな顔をして法螺貝を手に取る。そして大きく息を吸い込み、法螺貝を鳴り響かせた。大きく立派な音が戦場に響き、それと同時に沢山の足軽や武士が声をあげる。上手く出来た、と安心した顔に政宗が小さく微笑みかけた。

「よくやった」

そして陣から出る。

「負けることは考えるな!生きることだけ考えろ!全軍、掛かれ!!」

政宗の高い声が響くと、一斉に兵が突撃していった。予定通り、政宗が自陣から兵を出すより早く一番槍が敵に突っ込んでいく。

「尚継」
「はっ」
「伊継にはお前が頃合いを見て合図しろ。お前の方が視野が広い」
「はい!」
「綾」
「は」
「初陣の従弟達、確り見てろよ」
「はっ!」
「凉影」
「はい」
「お前は最善の策を出すように努めろ」
「はっ!」
「佳孝」
「は、いっ!」
「あまり気張りすぎないようにな」
「はい!」

近くにいる家臣一人一人に言葉を送る。言葉を受け取った一人一人が、その何気ない命令が最後のような気がしてならなかった。自分が死ぬ、と思っているわけではない。政宗が死んでしまいそうだ、と縁起でもないことを思っていた。悲しそうな瞳も細い声もいつも通りなのに、何故かそんな気がした。

「小十郎、馬を。彼奴等の分もな。定行のは要らん」

政宗は奥で槍を振り回す政哉を親指で指した。

「はっ」
「おい、そっちの」

政宗が呼ぶと、政哉とその家臣達が集まってきた。

「今小十郎が馬をつれてくる。この中に三人初陣の奴がいて、他の二人は経験者ながら浅いだろう。正直一番不安な隊だ。…隊と言え、お前らに特に命じた役目はない。だから儂等に付いてこい」
「はいっ!!」

全員の返事が重なり、士気が上がる。丁度そのとき小十郎が馬をつれてきた。

「隆昌、お前が一番経験豊富だ。政哉を連れていけ。西回りだ」
「はい」
「浜継、お前は金銀を頼むぞ。東回りにな」
「畏まりました」
「散!」

政宗が合図を出すと、五頭の馬は人を飛び出し二等と三頭に別れて戦場へ駆け出した。

「行くぞ、小十郎」
「は」
「定行、お前は策士だし城に戻っても…」
「あ、いえ。ここで」
「そうか。陣を頼んだぞ」

定行が頷くと、政宗は小十郎と共に陣の外へと駆け出した。

「うひょー、数多いなぁ」
「成実、お前もう少し緊張感を…」
「あーあー、分かってますよ父上」

成実は馬に乗りながら戦場を眺める。旗は圧倒的に敵の物が多かった。口角をあげ、成実は馬を走らせた。

「さーて、主のために働きますかね」