複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【ありがとう!銅賞受賞!】 ( No.464 )
日時: 2013/09/08 18:35
名前: ナル姫 (ID: bwnA48pc)  

陣から戦場に出た政宗は早く政哉達に追い付き、自分達の東側と西側、ちゃんと新人達がいるのを確認した。

「しっかり陣形は保てているようですね」
「そうだな」

走りながら遠くへ目を配る。午の刻方向、鉄砲隊二十人……丑の刻方向、特攻隊控え——確り布陣しているようだ。
そして、前線のぶつかる人取橋を視界に捉える。相手の全線は、見たところ400から500と言ったところだろうか。

(あと…29500…)

いつの間にか空には、暗雲が立ち込めていた。


___



「あーもう!何やねん!」

小浜城では、珍しく銀髪の策士が苛立ちを露にしていた。策士であるからと言って政宗が城にいるよう勧めたのだ。だが中々できない穴のない策に青年は自らの不甲斐なさに苛立ちを押さえきれていなかった。

(どないすんねん!数で圧倒的に不利な今、軍の手綱を握っているのは儂なんに!儂が確りせなあかんっちゅーに!)

策を立てては穴を見付け、また違う策を立てては穴を見付ける、さっきからそんなことばかり繰り返している。勿論、戦の明暗を分ける重要な役目にいると言う圧力も、青年を焦燥に駆り立てられるのに一役買っていた。
と、悶々とした空気の中に、優しい声が降ってくる。

「如何なさいました?」
「——っ!?うわああ定行はん!?」

まさかそこまで驚かれるとは思っていなかったのだろう。定行は相手の反応に目をぱちくりとさせていた。考え込んでいたのか、と推測ができたのか薄く笑い、驚かせてすみませんと軽く頭を下げた。

「あ、いや…謝ることないねん、儂が気付かんかっただけやしな」

へらり、と力なく凉影は笑ったが、妙な違和感を覚える。定行は今日陣にいると言っていなかっただろうか。

「あれ、定行はん、陣は……」
「え、あぁ、最奥様…綾様が戻ってきたので、任せてきました。米沢からの早馬が届いたらしいですし」
「よ、米沢から…!?なんかあったんか!?」
「何もないですよ?ただの定期連絡ですので」
「あ…」

何か悪い知らせでも来たのかと焦った自分が馬鹿らしい。相当疲れているのだろうか、と項垂れた。

「へぇ、良くできた策ですね」
「!?」

自分がほんの少し項垂れていた間に、あろうことか赤毛の青年は新しく彼が作った策が書いてある紙に目を通していた。しかし本当に気付かなかった、一見あまり早く行動しなさそうだが、侮れない。

「さっ定行はんっ!何見てはってっ……!」
「え、見ちゃ駄目ですか?」
「あかんあかん!失敗作やそれは!」
「へぇ…」

定行は凉影の言葉に返事はするものの、紙からは目を離さない。たまに頷いたかと思うと、眉を潜めたり、目を細めたりしていた。あまりに熱心に見ているため、凉影は定行から失敗作を奪い返せずにいた。

「…中々良くできてますね」
「え…」
「良いと思いますよ」
「いや、それ穴だらけやし…」
「それもそうですが」

あっさりと肯定され、凉影は肩を落とす。

(いや、確かに穴だらけやけど…そこまではっきり肯定されると流石に辛いっちゅーか…)
「今日って何日でしたっけ」
「え!?あ、今日?今日は三月十五日やけど…」
「あぁ、じゃぁもう十年経ったんですね…じゃぁ文句は言いませんよね、誰も」

脈絡のない定行の言葉に凉影は振り回される。定行は紙を見たまま優しく微笑むと、凉影を見た。

「紙と筆、貸してもらえますか?」
「え、ええ、けども…」

定行が、策を立てるのを青年は初めて見ることになる。

「定行はん、策立てはるんか…?」
「えぇ、これからはちゃんと立てなくては。期限も過ぎましたし」

発言を疑問に思ったが、とりあえず彼に筆と紙を渡す。定行はそれを受けとると一度目を閉じ、開いたと思ったら白紙の上にすらすらと筆で地図を書き始めた。