複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【五章】 ( No.473 )
日時: 2013/09/25 19:47
名前: ナル姫 (ID: MK64GlZa)  

「…綺麗な字」

内容については触れず、成実は紙を破きながらそう呟いた。

「渡さへんのですか?」
「あぁ。定行も依存はねぇだろ?」
「…はい」
「でも…」

凉影が言い掛けたとき、成実は一際大きな音を立てて紙を破いた。

「この手紙持ってきた使者も分かってるだろうよ。梵天丸にこの手紙が届かねぇ事くらい…それに」

成実からはいつものお茶らけた表情は消え去り、つり目勝ちな瞳からは冷たい眼光が放たれていた。小さく破かれた手紙は、成実の手から落ちたあと、ゆっくり宙を舞って畳に着地した。

「梵天丸が手紙を望んでいるとも思えねぇ」
「…」

重い空気が漂う。凉影の声は、嫌に大きく部屋に響いた。

「…家族は…大切にせないけまへんよ」
「恵まれているならな」

皮肉めいたその言葉の意味は、誰よりも凉影が理解した。今でも夢に見る、暖かい家族。


『——風丸、家族をちゃんと守れよ——……』


___



それからも戦は続くが、凉影や定行が考えた策は相手に利くものの、やはり人数の違いで伊達は苦戦を強いられる状況になっていた。
押され気味の状況が続く中、卯月の中旬——季節は本格的に春となる。

「あぁっ!」
「!?どうしました!?」
「銀!今日何日!?」
「えっと…十日、ですね」

政哉の切羽詰まった顔と勢いに少し気圧されながら、白銀が答える。主はわたわたと謎の身振り手振りをした後、政宗がいる部屋の方向へと駆け出した。
奥方とまだ仲直りしていない、加えて不利な戦況とあって機嫌が悪いのに、と思いながらも白銀は幼い主を見送った。何かしらあるのだろうと頭の片隅で考えながら。


___



「あっ政宗さぶぁ!?」

政宗の目の前、廊下で奇声をあげて政哉は大胆に転んだ。廊下で会うと言うことは想定していなかったから驚いて転んだのか、単にこいつが鈍いから転んだのかという事は政宗には推測不可能だった。ただ、起き上がった家臣の鼻と額が見事に赤くなっており、吹き出しそうになったのと同時に少し心配したが。

「…何の用だ?」
「えっと、その…短刀を新しく新調したくて…」
「…は?何のために?」
「あ、僕の物じゃないんです!その、十六日以内に欲しくて…」

キョトンと呆けた顔をしていたが、その内分かったのか、ハッと気が付いたように目を見開いた。そして今度はその顔を見た政哉が吹き出しそうになる。そしてそれを悟られ、赤面した政宗にパンッと頭を叩かれた。

「す、すみません、つい…」
「…まぁ、いい。取敢えず短刀じゃな。鍛冶屋に頼もう」
「あっありがとうございます!!」

政宗からの言葉を聞いたとき、ぱぁっと政哉の顔が輝く。主に深く礼をした。

「柄の色は?」
「あぁ、えっと…青と赤って言うのは…」

自分の目の色と彼の目の色、という意味合いで彼は言ったのだろう。

(…赤…)

僅かながらに表情が曇る。それをみた政哉は、遠慮がちに政宗に声を掛けた。

「あの…?」
「…」

無言のまま、ぎゅぅっと政宗は政哉の頬をつねった。

「ひたたたたたたたた!?ひはいれすひはいれす!」

ぱっと手を離すと、政宗は意地の悪い笑みを浮かべ、政哉にズイッと顔を近づけた。

「相も変わらず色の趣味が悪い奴だな、お前は」

そう言うと、政宗はそのままどこかへ歩いていってしまった。結局その色で良いのか悪いのか判断がつかなった政哉は、え?と政宗の背中へ声を掛ける。その声が聞こえたのか、暫く歩いた先で彼は政哉に振り返る。

「鍛冶屋にはお前が言った色で頼むからな。柄の色合いが悪趣味でも儂を恨むなよ」
「——!はいっ!」

戦中でありながら、政哉の顔は晴々しかった。
今日から十六日後、卯月の二十六日は——

赤毛の従者の誕生日。