複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【知恵を貸してください】 ( No.483 )
- 日時: 2013/10/06 20:44
- 名前: ナル姫 (ID: jwGQAuxW)
「ふーん…そうか」
政宗の声は坦々としていて、清千代の額に汗が流れる。何か不備があっただろうか。それとも証明が遅すぎただろうか。
「じゃぁ取敢えず着替えてこい。部屋の外に小十郎がいる」
「へ?」
一体この主は何を言っているのだろうか。
「…え?着替え?」
「あぁ、着替えだ。着替えたら小十郎の指示に従え。良いな」
「は、はい…」
訳が解らないまま清千代は部屋から出た。話の通り小十郎が待っていて、行きましょうかと彼に言った。
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まるで婚儀を行うときの服装だ。若草色の立派な着物を着た清千代は、服装にどことなく心地悪さを感じていた。恐らく、新品なのだろう。
「さて、行きましょうか。付いてきて下さい」
「は、はい!」
付いた場所は広間だった。小十郎が襖を開け、見えた光景に清千代は目を疑う。
そこにいたのは、政宗と成実、政宗の家臣達、そして自分の兄だったのだ。
「こ、れは…?」
「清千代、座れ」
「はっはい!」
清千代は急いで政宗の前に座った。政宗は自身の横に置いてあった冠を取り、清千代に被せた。その時漸く、少年はこの場が何なのかを理解する。
元服とは、男子が初めて冠を被る儀式なのだから。
「今日からお前の名は」
政宗が巻物を開く。綺麗な字で、『清次郎佳孝』と書いてあった。
「竹葉清次郎佳孝だ。幸孝に許可をとらず勝手に考えたが…まぁ良いだろう。お前がこの先、清く美しく、形良くあるように」
政宗の薄い微笑みは、生まれてから見たことがない程に優しかった。
「佳孝、儂についてこい。お前に忠義があるなら」
「っ…御意に…!」
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「そう言えばそんな事もあったな」
成実が口に出す。
竹葉家は一時撤退させ、二人は本陣に戻った。本陣では知らせを聞いたであろう定行が難しい顔をして腕を組んでいたが、二人が来たのに気づきハッと顔をあげた。
「あ、あの…ま、真に申し訳ございません!」
「…良い。福孝は死んだが、竹葉の損害は少なくて済んだ。他の奴も無事だしな。それにお前は悪くない」
頭を下げる定行に政宗が言う。近くにあった椅子に腰かけると空を見上げた。
空は既に橙色に染まっており、そろそろ本宮に帰る支度をしなければいけないようだった。烏が二羽、空へ飛び立つが、一匹が見当違いな方向に飛んできた矢に当たって落ちた。
「お二人も、早くお帰りになられた方が宜しいですよ。顔色が優れませんし…」
心配そうな顔をする定行に、政宗は頭を振った。そして今度は成実が定行に話し掛けた。
「蒼達は?」
「大分疲れが溜まって来ている様でしたので、先に城へ返しました」
「そうか。まぁ、確かに…初陣には辛いよなぁ…」
成実は溜息をつき、先程から一言も言葉を発しない従弟を一瞥。俯いたままの政宗の頭を兜の上から叩いた。
「っ!」
突然の衝撃に驚いたようだが痛くはなかっただろう。政宗は怒ったような表情を見せ、上目遣いに成実を睨んだ。
「疲れてんだろ、先帰れよ」
「…出来ん」
「お前の身体が壊れるのが一番不味いんだよ。大将としての威厳より身体大切にしやがれ」
「……」
定行も頷いている。成実は真剣な顔で見ている。敗けを悟った政宗は一度溜息、漸く諦めて立ち上がった。
「城まで送ってくる」
「あ、そのまま帰って大丈夫ですよ。片付けならしておきますので」
「そうか?じゃぁ頼む」
二人が陣から出ると、定行は改めて自分の作った策を眺めた。
(福孝様が死去…白河の特攻隊か…となると最奥様の方はどうなっただろう…)
「定行様!」
黒脛巾の一人が陣へ戻ってきた。定行は赤い紙を揺らし、忍へ目を向けた。
「河原家が参戦する模様です…!」