複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【知恵を貸してください】 ( No.484 )
日時: 2013/10/09 20:30
名前: ナル姫 (ID: jSrGYrPF)  

城に戻った政宗は最初に佳孝に会いに行こうとしたが、成実に先に休むように言われ、従兄と別れたあと渋々ながら寝所へ向かった。既に侍女が敷いてくれたであろう敷布団の上に横にナルと、どっと疲れが体に流れ込んできたような感覚に陥る。が、鎧のまま寝るわけにもいかずに再び起き上がる。眼帯を外して鎧を脱いで普段着になった。
外された眼帯の下に冷えた空気が触れる。本格的に疲れていたのか、溜息をついた瞬間に力が抜け、布団に倒れ込んだ。

「…疲れた」

つい口に出した言葉を、従兄と赤毛に聞かれなくて良かったと本気で思う。聞かれた暁にはこれでもかと言うほど休めと言われ、自分が押し負けることになるだろう。つまるところ自分に対し過保護なのだ、二人とも。まぁその原因の殆どは自分にあるのだが。

(…湯編みしたい…)

軽い意思程度では重い体を動かせず、政宗の瞼は段々重くなった。眠気には勝てず、まだうすら寒い季節だと言うにも関わらず、政宗は体に布の一枚も掛けず深い眠りについた。


___



「はぁ…」

風呂上がりで艶のある黒髪を下ろしたままの状態でいる少年は、歩きながら溜息をついた。理由は言うまでもなく、戦のことで。

(長いなぁ…嘗めてたかもしれない…それに、佳孝殿の兄上殿が…)

俯きながら、死んだんだよなと他人事のように考えていると、ふと人の気配を感じ顔をあげた。

「…佳孝殿」
「あ…政哉殿…」

散々泣き腫らしたのか、目が赤い。力なく笑うその顔で、相当精神的に無理していることが読み取れた。

「兄上殿のことは、本当に…」

政哉が言うと、佳孝は軽く首を横に振った。

「戦に出るってことは…こうなる事くらい、分かってなくちゃいけないから…覚悟ができてなかった俺が悪いんだよな…それに、これは兄上との思い出で感傷に浸ってる訳じゃなくて…」
「え…じゃぁ…」

思わず政哉が訊くと、佳孝は少し虚空を見詰め、どこから話そうかと迷っているような仕草を見せた。

「…俺は次男で、出来も悪くて…しかも俺、母親似なんだけど、父と母は仲が悪くて…母はもう五年前に死んでて、さ。…認めてくれるのは、家族では兄上しかいなくて」

時間にしてとても短い間で語られた少年の話で、政哉は理解した。政宗が佳孝を……敬語は使えない、頭も弱いと言いつつも、この人を自分に側に置いておく理由を。きっと——自分と重なって見えたんだろう、と。

「そう…だったんですか。あっすみません!そんなこと話させてしまって…」
「あ、いや、気にしないで」
「でも…」
「本当、大丈夫だから。政宗様の方がもっと辛い思いしているし…」

すぐに思い当たることがあった。先代、輝宗の死。政宗自身が部下に敵もろとも父の射殺を命じた事件。あの時、現場に自分はいなかったが、あの後の政宗の様子は胸に焼き付いている。

「…そう、ですか…そうなのかもしれませんね…僕も…」
「?政哉殿?」
「僕も…養父を失ったと思ったら続いて実父も失ってしまって……政宗様には近付きづらくて、慰めることも出来ませんでした。…弟なら…気休めでも、兄を支えなくちゃいけないのに…」
「…弟?」

ハッとした。佳孝は政哉が政宗の弟であると言うことを知らない。思わず言ってしまった事を後悔しつつ、言い訳しようとしていた。

「あ、その、弟っていうのは、あのっ…」

佳孝のどこか冷めた視線に気付き、少年は項垂れ、諦めた。

「…隠してて、すみません」

頭を下げると、頭上からクスッと笑い声が聞こえた。佳孝の性格からすると面白い反応をしそうだと思っていた政哉には意外で、顔をあげる。

「何となく…そんな気がしてた」
「え?」
「目の色は似てるし、照れた時の動作とか、政宗さ、様の態度とか…それに何より、『政』だから」

佳孝は政哉の前に跪き、彼を見上げる。

「改めて——宜しくお、願いします、政哉様」