複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【知恵を貸してください】 ( No.486 )
- 日時: 2013/10/15 21:51
- 名前: ナル姫 (ID: QDxiFvML)
八日後、初七日を済ませた竹葉家は戦場に戻った。本陣は前と同じ、ただ動きに対しては少し時間を与えて欲しいと言われ、現在は小隊すら出していない。
「木野の赤毛が…何を考えるなどと」
「幸孝様っ」
家臣の一人が諌める。幸孝は気に入らんと言うように舌打ちをした。昨日と言い今日と言い、父はどうも木野家が嫌いなようだ。尤も定行の策で福孝が死んだのだから当然と言えば当然なのだろうが。
そんなことを考えていたその時。
「失礼致します!竹葉様!」
「黒脛巾か」
「は、政宗様からの策でございます!」
「御苦労」
幸孝が言うと黒脛巾の人は陣から出ていった。紙を広げ、幸孝は指示を出す。
「佳孝」
「は、はい!」
「お前は百の雑兵を率いて西回りだ」
「え…ほ、他に誰か…」
「お前一人で率いろ」
「え…えぇぇぇッ!?お、俺一人!?ですか!?」
「もう立派に大人だろうが。一人でやれ」
ガクガクと体が震えた。
(俺が一人だなんて…何考えてるんだよ定行殿…!一緒にいた兄を死なせてしまった俺が一人で百人!?)
「早速行くぞ。用意が出来次第散れ」
「はい!」
他の家臣は返事をしたが、佳孝だけ未だ動けない。部下の一人が佳孝に声を掛ける。
「よ、佳孝様、早く支度を…」
「えぁ!?あ、うん!」
佳孝も急いで馬に鞍をつけ、雑兵たちを率いる支度をした。采配と短刀、槍、瓢箪……必要なものは揃っている。
「い、行くぞ!」
「はっ!」
不安な気持ちを抱えたまま、佳孝は丘を下る。と、前に敵の小隊が見えた。兵の奮闘で難なく勝ち抜いたが、佳孝自身上手く動くことは出来なかった。そして、次に特攻隊が——その旗印が見えたときだった。
(白河…!)
それも、人数は自分達の三倍はいそうだった。それでも避けることが出来るはずもなく、突撃した。混沌の中で佳孝の目は回り、段々と朦朧とする。その時、自分に向かってくる刃を見た。あ、死ぬと思った瞬間、佳孝の視界は暗闇に包まれた。
___
「う…」
暗い部屋で目が覚める。障子は開いており、曇り空から僅かに月明かりがしていた。
(もう…夜か)
一体自分はどうしていたのだろう。確か、白河とぶつかって死にかけたのではなかっただろうか。
(…?話し声…?)
「……だから………だろう」
「しかし………でしょう、彼奴は…………」
「だがお前の…………」
(父上と…政宗様…)
朦朧として中々聞き取れなかったが、徐々に何を言ってるのか明らかになってきた。
「政宗様まで危険に晒したのですぞ。佳孝は…」
「何も巻き込まれたわけではない。好きで助けたわけだし、儂は無傷だろう」
「しかしこれ以上伊達家に置いておくわけにはいきませぬ!これ以上の御迷惑は!」
「別に迷惑と思っていない」
「つ、強がらずとも」
「はぁ?強がってなど…」
耐えられなくなった佳孝は、思わず襖を開けてしまった。
「っ…佳、孝…」
「あ、あの…」
何を言おうか迷っていると、幸孝が佳孝の前に進み出た。威厳のやある顔に大きな体。自然に体がすくんだ。
「佳孝」
「は、はい」
「お前を政宗様と成実様が助けて下さった。お二人はご無事だが、これ以上お二人にお前の面倒を見ると言う負担は掛けられん。どういう意味か解るな?」
「…はい」
「なら言わん。今からお前は伊達家家臣ではない。竹葉の跡取りだ」
それだけ言うと幸孝は政宗に頭を下げその場から去っていった。
「ま、待て!幸孝!」
政宗は黙り込んだ佳孝と、去り行く幸孝を交互に見やり、最終的に屈んで佳孝を見た。
「儂は迷惑とは思っていない。だから…」
「い、良いんです!…どうせ、いつかは戻る事になる…それが、少し早まっただけで、ですから」
弱々しく笑い、政宗に一礼すると少年は父を追った。
主には見せたくなかった、涙を流しながら。
(…嫌だ……嫌だよ…!)