複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【知恵を貸してください】 ( No.497 )
- 日時: 2013/10/30 21:11
- 名前: ナル姫 (ID: tBS4CIHc)
水無月の末、和泉家はひっそりと隠岐に流されることとなった。大阪城の地下牢から海まで連れていかれるが、そこに凉影の姿はなかった。
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居城から追い出された和泉家やその家臣の一族は、大阪城へ行く道の途中の庵で一晩を過ごした。その夜——。
「身代わり?」
「せや。お前のな。妾の甥っ子や」
「母様正気ですか!?」
「正気に決まっとる!荷物はもう纏めた、身代わりも用意できとる」
「そんな、勝手に…!嫌や!儂も一緒に…!」
「あかん言うとるのが分からんか!?」
珍しく怒鳴り声を上げた母親に驚き、首を項垂れる。母親はしゃがみ、彼の両手を掴んだ。
「大丈夫や。体は離れていても心はいつも一緒。父様が言うてたやろ?父様は死んでしもうたけど、心はお前の中にあるやろ?」
小さく、だが確りと少年は頷く。母親は彼と同じ色の髪を揺らし、瞳を見つめた。
「よく聞き、凉影」
真剣な声に顔をあげると、母親は少し顔を険しくして小さな声で彼に言った。
「奥州の出羽の国にな、伊達っちゅう小さな大名家があるんや」
「伊達…?」
「あぁ、そこに仕えとる家にな、妾ら和泉の遠い本家、奥州和泉家がある」
「奥州、和泉家…」
「せや。そこを頼りんさい。合わないと思ったら出ていったってえぇ。お前が信じる主に仕えや。兎に角、どんな手を使っても生き残るんや」
「っ…はい」
返事を聞くと、彼女は安心したような顔をした。そして、続ける。
「あと、ちゃんとご飯は食べなアカンで?野菜も残さず食べ。ちゃんと寝て、病気せんようにするんやで?主には忠実に仕えるんや。お前は策略得意なんやから、それを活かせるようにな」
言っているうちに彼女の目からは大粒の雫が落ちてきた。そんな母親を見て、彼の瞳からも涙が零れる。
「…母様」
「何や?」
「儂が信じられる主見つけて、その主が天下取るまで…隠岐で生きとって下さいね?
必ず…迎えに行きますから」
彼は母親に抱き寄せられた。
「うん…待っとるで。いつまでも。さ、そろそろ行き。裏山なら見張りもおらん」
「うん…」
その時家臣が来た。小さな荷物を持っている。恐らく中身は少量の食料くらいだろう。凉影はその荷物を持って一度息をついた。そして、薄い笑みを浮かべ。
「じゃ…行ってきます」
___
二ヶ月後奥州——。
「輝宗様も奇特よのう」
「らしいと言えばらしいな。政宗様が風邪引いたと言って月見を延期とは」
「しかし良き月よ。雲もなく、よう透き通った空じゃ」
「もう暫し薄い雲があった方が風流ではないか?」
家臣達が月を賛美している。会話にあったように、輝宗は葉月の十五日に行う予定だった月見を延期していた。気を使わなくてもいいのに、と政宗は少々居心地が悪そうだったが、家臣はあまり気にしてなさそうだ。そんな政宗の心情を察してか、ぼんやりと月を見上げる彼の視界に急に人が入り込む。
「…何じゃ、成実」
「いやぁ、つまんなそうな顔してるからさぁ。どうせこんな席に居たって面白くねぇだろ?裏山でも行こうぜ」
不敵に笑い差し出された手を取れば、従兄は満面の笑み。
「輝宗様ぁ、梵天丸借りまーす」
「んぁ?おーぅ」
酔っているのか、聞いていないようだが成実は気にせずに政宗を裏山に連れていく。
裏山に着き、月が見えるところへ行くと、成実は懐から饅頭を二つ出した。
「父上のとこから盗んできた」
「叱られても知らんぞ」
呆れた様に笑う。と、その時聞こえていた草を踏む音。そして見えてきた汚れた銀の髪の少年。二人がキョトンとしていると、少年は目を見開き政宗の方に走ってきた。
「っ!?」
「そ、それ!」
「なな、何だ!?」
少年は腰を抜かした政宗の目前で動きを止めた。そして。
「ひ、一口でええから、くれまへん…?」
「…へ?」
少年達は出会った。