複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【感謝参照6000!】 ( No.509 )
- 日時: 2013/11/08 12:30
- 名前: ナル姫 (ID: 7foclzLM)
「あの、輝宗様…」
「ん?どうした小十郎」
「その…政宗様がいらっしゃいません…」
「…だろうと思った。まぁ成実もいるだろうし、凡そ(およそ)の検討はつくから放っておけ。朝になれば戻るだろう」
___
二刻後、和泉家居城——。
「お前絶対俺を巻き込むなよ。輝宗様に怒られるのは御免だ」
「付いてくると言ったのはそっちの癖に何を言っておるのだ」
「だってお前一人放っておくと危なっかしいんだもんよ……にしても…」
成実はすっかり暗くなった景色の中にある城を見た。
「凉影に、その気はあるのかねぇ…」
「…さぁな。言ってみる他あるまい」
二人の少年は適当な所に馬を繋ぎ、城の中へ入っていった。
___
凉影は一人で縁側に座り、空を見ていた。空の月は、政宗達と初めて会った夜とは対称的な細い三日月だったが、あの満月に劣らない美しさだ。
「良き月じゃな」
「あぁ、そうですね……って…」
降ってきた声にそれとなく答え、違和感を感じて声のした方へ視線を向ける。
「ぼっ梵て…やない!政宗様!」
「貴様今腹の立つ間違いをしたな…まぁ良い。久しいな、凉影」
凉影は戸惑いながら、数度軽く頷いた。どうも、と言う言葉も添えながら。
「えと…なんか、御用ですか?」
独特な発音だが通じたらしく、政宗は雑談でもするように話し出す。ただし、凉影には気の重い話だったが。
「貴様、ここで随分肩身の狭い思いをしているらしいではないか」
「え、まぁ…でも仕方無いことなんで…」
「ふぅん…ならここに居なければ良いだろう。蘆名でも佐竹でも相馬でも、好きに逃げれば良い。それとも、何かここに留まる理由でもあるのか?」
「……政宗様」
政宗を見る凉影の顔には、どこか不快そうな表情が浮かんでいた。
「何がしたいのか…はっきり言うてくれまへん?」
暫しキョトンと凉影を見た後、諦めたように溜息をついた。
「…分かった、単刀直入に言おう」
息を吸い込み、貫くように凉影を見据える。
「凉影、儂はお前の能力を評価したい。米沢に来い。儂の直属の家臣となれ」
今度は凉影がキョトンとした。普通こう言うのは、家臣にしたい人間を城に呼んで言い渡すものではないのか。それに、自分なんかを欲しがる人がいるものなのか。様々な思いが過り、動けずにいると、政宗が彼に立つための手を差し伸べた。だが、その手を取ることは、政宗の直属の家臣になることを意味している。
「儂について来い」
最早意見など聞く気もないのだろう。いや、聞く必要がないのだ。政宗は、凉影は必ず自分について来ると確信している。寧ろ、こんなに長い間和泉本家に留まりながら伊達に従う意思がないと言う方がどうかしている。
ふと凉影は、どうして彼はこんなにも自分の事を気にするのだろうと疑問に思った。だが解答は直ぐには見付からず、諦める。それよりも今は、この状況からの脱却だ。
「…はい!」
___
城に帰り小十郎や輝宗、更には喜多にみっちりと説教をされた政宗と成実は、まず政宗の部下達を紹介した。
「今日は定行がいるから、多分将棋大会じゃな」
「しょ…将棋大会?」
「こいつの家臣が一丸となって定行って言う将棋が強い奴を倒そうと躍起になってんだよ」
苦笑する成実に苦笑で返す。暫く歩くと、とある部屋から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「あーっ!また負けた!」
「よ、容赦ない…定行さん…!」
「こんなに駒が余っているのに…」
襖を開く。そこには、黒髪の少年、銀髪の少女、茶髪の小さい少年がいた。そして彼らと向かい合う形で、赤髪の少年が座っている。四人は政宗と成実の姿を捉えると、口々にお帰りなさいませと言った。