複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【感謝参照6000!】 ( No.510 )
日時: 2013/11/13 20:22
名前: ナル姫 (ID: 0inH87yX)  

「あ、その後ろの人が新しい仲間ですか?」
「和泉凉影だ。堺の方から来た者故、聞きなれん言葉だろうが仲良くな」

政宗が言うと、四人は一斉に頭を下げた。そして顔をあげたとき、黒髪の少年がニヤリと笑い、将棋の駒を並べ始めた。意図が分かったのか、赤毛の少年も丁寧に並べ始める。

「?」
「仲良くなる前に、とりあえず腕試しってことで。定行さん、手加減なしでお願いします」
「はい」
「え…腕試し…?」
「簡単な話じゃ。そいつ、定行っていう髪が赤い奴と将棋で勝負すればよい」

はぁ、と曖昧な返事をしたが、取りあえず彼と向かい合う形で座る。そちらからどうぞ、と定行が促したため、彼は歩兵を進めた。


___



「強いですね、凉影殿」
「織田信長公の部下だったらしいしな」
「お…織田!?」

驚く家臣達に、政宗は堺に和泉の分家があることを話した。納得する家臣達は、改めて勝負の状況を見る。取った駒は凉影の方が多そうだ。

(何や…大したことないやん)
「定行」

溜息混じりに聞こえた高めの声。見れば、政宗が腕を組んで凉影の後ろに立っていた。

「言った筈じゃ。手加減はするなと」

定行と呼ばれた少年は何も反応を示さない。

「それとも…そのくらい手加減をせねばつまらぬか?」
「……なんだ、もう少し苦しんでおこうと思ったのに」

にっこりと笑う。そして政宗を見上げた。

「けれど…久々に、強い方が来ましたね」

凉影の体が強ばる。本気ではなかったのか、という驚きと興奮。深い笑顔への恐怖。そして、目を開いた少年の瞳が、初対面でも分かるほど真剣なものになっていたことに対する緊張。

「反撃開始と参りましょうか」


___



あっという間だった。赤毛の、大して年も変わらない少年に凉影は完敗した。

「ありがとうございました」

終わったとき、丁寧に頭を下げた彼を見て、凉影も慌てて頭を下げる。

「あ…そろそろ行かなくては。では、失礼致します、政宗様」
「あぁ」
「あ、あの!」
「?何か?」
「えっと、その…御名前、教えてくれへん!?」
「名前ですか?木野定行と申します」

柔らかい微笑みは、先程とは別人だった。

「久々に楽しい将棋ができました。ありがとうございます」

最後にそれだけ言い残し、彼は縁側から門に向かった。

「さて、腕試しも終わったことだし、自己紹介といくか。尚継」
「はい」

ころころと変わる展開に、新人の彼はただ目を丸くしていた。


___



「はぁ…長い一日でしたわぁ」

夜、湯編みをした後に凉影が呟いた。

「だろうな。だが良い奴だっただろう?」

凉影は政宗を見ずに頷く。何となくだが、自然と緩んでしまう口元を見せたくなかった。もっとも、政宗には笑っているのが分かっているのだろうが。

「…てゆうか、何ぞ儂政宗様と相部屋に…?」
「急な話で部屋がなかったのだ。馬小屋で寝るよりましだろう」
「あ、いや、それは当たり前やけど…」

布団はもう一人分あったらしく、一緒の布団に入ることにはならなかった。政宗はすでに眼帯を包帯に変え、掻い巻きの中に潜っていた。

「…包帯は、外さへんのですか?」
「…どうせ見えないからな」
「あ…も、申し訳…」
「良い。慣れてる」

本当に、何も気にしていないような声色。少し白けてしまった空気を何とかしようと、彼は口を開く。

「教えてくれまへん?」
「何を?」
「いや、その右目を失った時の英雄譚の一つでもお聞かせ頂いたらなぁ思いまして」
「…別に、そんなものはない」

政宗は寝返りを打ち、凉影に薄い笑顔を見せる。

「右目のない人生の方が既に長いのじゃ…五つの頃痘瘡にかかって右目が潰れたなんて…英雄譚とは言えんだろう?」

彼は息を飲んだ。それは、この主が痘瘡にかかったからではない。

「そっか…助かったんやね」

彼の父を殺したのと同じ病だったからだ。