複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【感謝参照6000!】 ( No.511 )
- 日時: 2013/11/16 20:10
- 名前: ナル姫 (ID: 9IMgnv4t)
暖かかった。空気も、仲間も。疎外感は消えた。夢のような居場所。皆いい人で、それでいてどこかに闇を抱えていて——。
凉影がここに来たとき、伊達家は相馬との対戦中で、戦経験のある凉影はすぐに戦に出ることになった。とはいえ、それは軍師としてだったが。
「何で儂が!?」
「軍師だからでしょう」
「いや、そうじゃなくて…き、木野はん!お前さんが立てれば良いやろ?将棋あんなに強いんや。頭もええんやろ?」
「あー…私は色々ありまして…策を作れないのです」
「…?」
「理由は言えませんがね。兎に角、私に策略は許されていません。ですが、あと三年…あと三年経てば、私は策士として働くことができます」
定行は凉影を真っ直ぐ見据えた。
「それまで…宜しくお願いします」
彼は最後に、助言しますと言った。非情になると良い、と。
戦は勝利した。彼が非情になって考えた策に敵は嵌まり、大敗。だが彼の心にはわだかまりが残り、どこかで違う自分が間違っていると叫んだ。
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「違うって何がじゃ」
夜、凉影は政宗の部屋を訪ねた。政宗は金平糖を食べながらではあるが、真剣に話を聞く。
「分からへんのです…けど…自分がしたかったのは、こんな策略やないような気ぃして仕方ないんや…」
「…凉影、此度の戦で定行から何か助言されなかったか?」
「さ、されました!非情になれって!」
「あー…やはりな。定行はまた特殊じゃ。お前はお前のやり方で戦をすれば良い」
「けど…今回の戦で、非情になって作った策が成功してしもうて…父様からは違うこと習ったんに…」
政宗の金平糖を食べる手が止まる。
「何て言われた?」
「優しい心もないと、ちゃんとした策は作れへん…確かに父様が作った策は凄かったけど…確かに優しかったんや」
政宗は暫く目を伏せ、何かを想っていた。
「本来ならそれが普通なのかもな」
「…」
「定行は…策略に関しては、非情になることしかできないだろうから」
政宗は再度、金平糖をつまんだ。
「次の戦はお前の好きにすると良い。自分に従うか、定行に従うかは自由だ」
——きっと——父が生きていたら、自分は今ごろ父の言う通りに生きていたのだろう。父はきっと、自分流の策を立てろと言うのだろう。
同じ病でも助かる人と助からない人がいて、天は不平等だ。だけど……彼は、この主についていきたいと、心の底から思った。
ただ悪いのは、自分流に作った策が失敗したと言うことだった。
「はぁ…」
「ふふ、随分と叩かれたようですね」
気落ちしている凉影に笑い掛ける定行。睨むように凉影は彼を見た。
「そんなに…大切なんか、非情って」
彼の言葉に、定行は暫しきょとんとしていた。軈て可笑しそうに笑う。
「まさか!あれは本の冗談ですよ!」
「は!?」
「何だ、聞き流してくれても良かったのに従ってたんですか?」
「だ、だって助言って…」
「助言に従えなんて誰も言いませんよ。ただ、『私ならそうする』と言う話ですよ」
唖然とする凉影をくすくすと笑う。
「からかってすみません。策略は人の自由です。失敗しない人なんていないのですから、この失敗から学べば良いではないですか」
(…なんや…何ぞよう分からん人やと思っとったけんど…)
いい人だ。
「…おーきに、定行はん。少し自信ついたわ。あ、せや。この言葉直した方がええか?」
「へ?いえそれで良いと思いますよ」
「いや、聞き慣れへんやろ?」
「すぐ慣れますよ、そのくらい。それに」
定行は、どこか寂しそうに笑う。
「家族と離れ、好きな故郷を追われた貴方が、今度はその故郷の名残を捨てるおつもりですか?」
あの笑顔は今でもこびりついている。何故彼があんな顔をしたのかは今でも分からない。ただ確かなことは。
「これでどうや定行はん!」
「おぉ、良い策です。政宗様にお伝えしましょう。」
恩人でもあり目標でもある彼のお陰で、和泉凉影がここにいると言うことだ。