複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【感謝参照6000!】 ( No.512 )
日時: 2013/11/18 19:10
名前: ナル姫 (ID: ChJEPbqh)  

「あ…せや、定行はん」
「はい?」
「最近なんか…様子おかしかったけど、何かあったんか?」
「え、あ…」

定行は僅かに目を見開き、伏せた。図星だったようで諦めたように笑う。

「やっぱり…柄にもないですよね、剣振ってるって…」
「…」

凉影の真剣な瞳に定行は溜息をついた。

「…聞いても、気持ちの良い話ではないですが…蘆名に、下級武士の河原という家があります。当主は、河原景就…私が子供の頃、父親が亡くなったため家督を継いだ人で、今でも当主を担っています。理由は、言えませんが…私は彼に恨みがあります。十年前から、ずっと…消えない恨みです」
「…」
「…今回の戦にも、参加したと、聞きました。どこに陣を置いたのかも知っています…しかし、戦は私情で行うものではありません。今私が策を担ったら、何を犠牲にしてでも真っ先に河原を潰すような策を考えてしまいそうで…自分が怖いです……本当、出来ることなら、今すぐにでも殺したいくらいです。目をくり貫いて、指を斬って、踏みつけて…!赦しを請いながら死んでほしいですよ!」

段々荒く、感情的になる口調に、凉影は少し驚いた。だが反面、酷なことを考えるなぁなんてのんきに思う自分がいる。

「そうやったんか…あ、すんまへんな、嫌なこと聞いてもうて…」
「…いえ…良いのです。こちらこそ、辛気臭い話なんかして申し訳ございません」

優しく微笑むが、その両手は拳を作っており、何かに耐えているように見えた。

「…ま、なんや。そない訳ならしゃぁないわな。今はどーんと儂を頼ってぇな!」

狐の様な目を更に細めて言う凉影に、定行は嬉しそうに笑い、はい、と頷きながら返事をした。


___



「政宗様、政宗様ぁッ!」
「何じゃ騒々しい」
「最奥の若君が…綾将様が、自害なされました!」
「——!?」


___



二刻前——。
最奥綾と弟の綾将、二人の従弟で初陣の虎丸と獅子丸は、前線の方で戦っていた。相手は佐竹の軍勢。苦戦を強いられていた。

「獅子丸!手綱を確り握れ!」
「はいっ!」
「虎丸!怖がらないで目を開けなさい!」
「は、はいっ…!」

初陣の二人の体は震えていた。無理もない。こんな大軍勢を相手にしているのだ。
と、獅子丸の体がぐらつく。それを狙った槍を持った足軽が彼の馬の足を貫く。

「う、わぁ!?」
「獅子丸!」
「綾将!駄目!」

綾将は急いで馬から降り、馬ごと転倒した獅子丸を立たせた。その時、獅子丸の背後から違う足軽が二人を狙おうとしてくる。

「クッ…」

綾将は獅子丸を押し退け、右足を確り地面につけた。そのまま足軽に背を向けるのと同時に右手で相手の手首を、左手で胸ぐらを掴み、そのまま背負い投げをする。

「ぅおらっ!」

と、一安心も束の間、次の瞬間、綾将は違う足軽に背後を取られた。

「綾将兄様っ!」
「綾将!」
「近付くな!この餓鬼を殺すぞ!」

足軽は短刀を綾将の首にあてがい、切羽詰まった表情で三人を睨んだ。

「クッ…」
「姉上、俺の事は放っておいて下さい!兵も混乱します!」
「でも」
「お早く!」
「っ…行くよ、二人とも」
「あ、綾姉様、でも」
「良いから。綾将、後で来なさい」
「勿論」

三人が去った時、足軽が舌打ちをした。だが自分が死なないために人質として綾将を連れ歩くつもりらしく、乱暴に彼を立たせた。正確には、立たせようとした。

「最奥家に…主の足を引っ張る足手まといは要らない。たとえ、跡取りでも」

言葉に足軽は嫌な予感を覚え、捕らえた少年兵を見た。彼は、いつの間にか自身の短刀を自分の首筋に当てていた。

「腹を切れないのは残念だけど…これも一つの自害って事だ」

足軽が止める間もなく、彼は動脈を短刀で突き刺した。吹き出す鮮血。冷えていく体。遠退く意識。

(——姉上…これで少しは、貴方に報えたでしょうか?)

由緒正しき上級武士、最奥家の話。