複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【五章】 ( No.514 )
- 日時: 2013/12/01 13:40
- 名前: ナル姫 (ID: cZfgr/oz)
「側室ですか…」
「良いじゃろ?」
伊達家では、先日部下として尚継を貰った政宗が父親から婚約の話を持ち込まれていた。政宗は冴えない表情で輝宗の話を聞いていた。
「愛がいるではないですか」
「だから、側室」
「まだ私は十六です」
「いつかは貰うだろう、側室の一人や二人」
「まだ要りません」
「貰っておけ」
「い、り、ま、せ、ん」
「も、ら、え」
何だかんだ似た者親子、二人とも自棄になって来ている。と、そこに飛び込んできた明るい声。
「じゃぁ輝宗様。それ俺に下さいよ」
「…お前いつ来たんだ成実」
「今さっき」
へらへらと笑いながら成実は襖を閉め、政宗の横で胡座をかく。
「俺は正室もいませんよ?そろそろ欲しいです」
「いやお前のは決まっておる」
「…へ?」
「錦織の息女がお前に見とれておった。ただの人質では錦織の機嫌を損ねるからお前に嫁がせる」
「えー!?錦織って下級武士じゃないですか!」
「そんなこと言って良いのか…?」
「?」
輝宗は成実に近づき、小さな声でいった。もっとも、政宗にも聞こえる声だが。
「あの娘、小柄で可愛らしくてな、また泣き虫な者で非常に守ってやりたくなる」
「慎んでお受け致します!!」
「お前…」
呆れたような政宗と一切の不満が吹き飛んだような成実。輝宗は政宗が言ったことは特に気にしてないのか、満足そうに成実を見た。
「そう言えばまだ相手を聞いていませんが」
「あ、そうそう。綾じゃ。小さい頃よく遊んだじゃろ?」
「最奥ですか」
「うむ、弟がかなりできるらしくての。綾も芸達者とはいえ女子。政略に使いたいのが綾兼の正直な所じゃろうな」
綾の事は政宗も成実も知っている。一時期はよく一緒に遊んだものだ。しかし、今さらその遊び相手を嫁、それも側室として貰うのは気が乗らない。が、政宗は何か思い付いたのか、ニヤリと口角を上げて言った。
「良いでしょう、綾は私が貰います。一つ、条件を飲んでくださいましたら」
「条件、とな?」
「弟…最奥勇気丸を私の直属の部下に下さい」
「なぁ!?勇気丸は最奥を継ぐのだぞ!?」
「それなら尚継だって同じことでしょう」
「それにお前には既に四人の部下がいるではないか!」
「小十郎は兎に角、あといるのはこの馬鹿と脱け殻と天然です」
「言葉選べよ…」
「黙れ馬鹿。兎に角その条件を聞いてくだされば綾をめとります」
「お前は…」
呆れながらも苦笑をし、はっきりと意見を言う息子に少し嬉しそうな顔をしていたのは別の話。
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「初に御目にかかります。最奥綾兼が嫡男、勇気丸で御座います」
数日後、取敢ず本人の意思を確認する目的で政宗と勇気丸が会った。最奥の大人達は嬉しそうに視線を勇気丸に注いでいる。
「勇気丸、お前を儂の部下にしたい。儂についてきたら最奥家の安寧を約束する。どうだ?」
「断る理由などなかろう。なぁ、勇気丸」
「……評価して頂いた事は、とても嬉しいです。ですが…丁重にお断りさせて頂きます」
「なっ…!?勇気丸!何を言うか!大変なご無礼を…」
「止めろ、綾兼」
勇気丸を怒鳴った綾兼を政宗が制する。断られたと言うのに何処と無く楽しそうな顔で。
「…元々は、姉上の婚約の話です。今回の話では丸で、姉上が私の付属品の様ではないですか!」
「…」
「姉上は姉上です!俺の付属品じゃない!それなのに俺を評価して姉上を見ないなら、俺はこの話を破棄します!」
強く言い切った少年の目尻には僅かに涙が浮かんでいる。
「…ご無礼を、申し訳ございません。どうぞこの首、お刎ね下さい」
深く頭を下げる勇気丸に、政宗は溜息をついた。そこまでされたら自分が悪人のような気がしてならない。
「されば、政宗様」
小十郎が彼に小声で何かを提案する。政宗は二、三度瞬きをし、薄く笑った。
「なら、これでどうだ?」