複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【目次リメイク】 ( No.526 )
日時: 2014/01/25 16:29
名前: ナル姫 (ID: nLPrrFyW)

冬、米沢に宗太郎は来た。

「廃嫡?」
「うんまぁ、はい」

ヘラリ、と宗太郎は笑った。廃嫡──つまりは捨てられたと言うのに気楽なものだ。当然宗太郎を捨てたのは伊継の意思ではないため、本当に追放はせずに米沢で小姓として働けと言った。

「でも宗太郎、本当に良いの?」
「何で?」
「何でって…宗太郎はもう、睦草家には戻れないんだよ?」

若松が心配そうに彼を見る。宗太郎は目を瞑って溜息、再び目を開いた。

「んー…仕方ないよ。家訓に逆らった僕が悪いんだし、御爺様の意思だし」
「でも…」
「良いんじゃねぇの?本人が言ってるんだし」

時宗丸が頭の後ろで手を組んで面倒臭そうに声を発した。梵天丸は時宗丸に同意を求められ、知らん、というように肩を竦めた。


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さて一方、武術を学ことを第一とした兵三郎と悠五郎(後の風継)は大変だった。武術のほかに軍略、政略、作法など学ぶことは山積みである。勿論尋問も大切な事の一つではあるが、宗太郎を廃嫡してしまった以上、尋問が大切だと子供に教えてはいけなくなってしまった。やはり睦草家は、古来からの拷問で世を乗り切るしかない。

「西有様、やはり伊継様に厳しくしすぎではないでしょうか…睦草家で尋問を教えられなくなってしまいますし…まだ八つの宗太郎様に廃嫡はあんまりです」
「知ったことか。伊継に伝えよ、宗太郎を子に戻したければ、儂を宗太郎の話術で驚かせてみせよとな」

頑固な西有は、宗太郎と伊継が可哀想だと言う声にも、決して首を縦に振らなかった。
数年後、自分が宗太郎を認めざるを得なくなる事件がおこるとは知らずに。


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春になり、木野家が滅亡した。詳しい事情は、伊達家に近い家臣の大人と、伊達家の親族、そして、梵天丸、時宗丸、小十郎、そして──唯一生き残った、若松のみであった。何があったのかは知らないが、兎に角若松とはそれ以来滅多に会わなくなった。それから、時宗丸も父のいる大森で過ごすことが多くなり、梵天丸も家督を継ぐために修行をする時間が長くなった。
二年後、梵天丸が元服し、名を藤次郎政宗と改めた。その翌年には若松が元服、赤次郎定行と名乗った。さらに翌年には時宗丸が元服し、藤五郎成実と名乗ることとなった。そして翌年の睦月、政宗が田村家の息女である愛姫を正室に迎え入れ、春に政宗の実弟、竺丸が元服し、小次郎政道となった。丁度その頃、金田哉人からの頼みで、定行は七歳の蒼丸の傅役に抜擢された。
事件が起こったのは、七月のことだった。
その暑い日、珍しく定行が米沢に来ていた。政宗、成実、定行の三人は茶を飲みながら楽しく雑談をしていたが、急に空気が変わる。m佐宗はその鋭い隻眼を天井へ向け、護身用の短刀を抜いた。

「そこにいるのは誰だ!」

政宗が凛々しい声で言う。すると気配は消え、政宗は短刀を仕舞ったが──。

「──ッ!定行ッ!」

成実が叫ぶ。定行は咄嗟に振り向き、体を捻った。するとピッと頬に傷ができ、鮮血が流れる。畳に手裏剣が刺さった。

「逃がすかッ!」

すかさず政宗が短刀を投げつける。命中したようで、天井から血が垂れてた。

「宗太郎、侍女と小十郎を連れて参れ。あと大人に伝えてこい」
「は、はい!」
「定行、大丈夫か?」
「えぇ、大した事はないです」

定行は薄く笑う。確かに少し血が出ているが、傷は浅そうで、痕に残るような物ではなさそうだった。
その後、従者が天井裏に潜んでいた他国の忍を捕らえ、牢に入れた。勿論どこの忍で何が目的なのか聞き出そうと拷問をしたが、忍は何も言わなかった。

「ここままだとあの忍死ぬよな」
「そうだな…まぁ忍なら口を割らないのも仕方なかろう」

拷問の様子を見ていた政宗と成実。宗太郎は暫く何かを考え──。

「…あの…」
「?どうかしたか?」
「俺に、任せてくださいませんか?」
「…拷問をか?」
「拷問したって、忍ですもん、口は割りませんよ」

宗太郎は親指で額を指し、にやりと笑った。

「頭を使わないと」