複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【目次リメイク】 ( No.527 )
日時: 2014/03/21 17:15
名前: ナル姫 (ID: MjWOxHqS)

「さてと、えっと初めましてですね、僕は佐々木凛助といいます。宜しく、忍さん」
「始まっちゃったよ…」
「殺されないと良いな」

宗太郎が尋問を申し出た翌日、輝宗の許可が下りて尋問が認められた。宗太郎はニコニコ笑いながら目隠しをされた忍の反応を待つ。勿論、何も反応しないわけだが。
佐々木凛助というのはいうまでもなく偽名だ。特に何に使うわけでもないが、素性の知れない相手に易々と本名は教えられない。

「じゃぁ質問いっきまーす。どこの家の人?あと名前は?」
「……」
「黙秘ね…じゃぁ当てよっと。伊達家!なんちゃって」

ぺろ、と宗太郎は舌を出した。一瞬、眉間が動いたのは勿論見逃さない。

「んー、最上?佐竹?南部?北条?蘆名?津軽?畠山?大内?」
「…」
「この中に正解ある?」
「…」
「あ、もしかして織田!?……ってまさかね」

クツクツと笑う。外で聞いていた三人は肝を冷やしていた。

「…てゆうか、本当にこの格好じゃなきゃ駄目なのか…?」
「まぁ不愉快極まりないが…何とかするというのなら耐えよう」
「うぅ…早く着替えたいです…」

部屋の中では、宗太郎が定行を襲った理由を尋ねていた。様々に理由を挙げてみたが、忍はどれにも反応しなかった。宗太郎は溜息をつき、一旦休憩しようか、いう。そして、藍、と女性の名を呼んだ。

「は、はい、凜助様!」


___



昨夜、政宗の部屋——。

「作戦に協力してほしい?」
「はい、三人に手伝って頂きたいのです」
「何をすればいいんだ?」

成実が尋ねる。言いづらいんですが、と宗太郎はどもったが、単刀直入に、と政宗が急かすので遠慮なく口にした。

「女装です。定行さんだけ名前は決めます。藍ってことで」
「はぁ!?」

成実と政宗が声をあげる。定行の顔も引きつっていた。

「えっとですね、最初から説明します。まず、あの忍は明らかに生半可の中途半端なのじゃなく、本当に確りした忍ですよね?あんな拷問に耐えてるんですもん。でも、ちょっとおかしいんですよ」
「何が?」
「よく見てたんですけどね、あの人、初日から攻撃を受けるときにちょっと体を捻っているんです」
「は?」
「拷問のときは、別に目隠しなんてしませんよね?つまり、忍には次にどんな攻撃がくるか分かるんです。まぁ殆どは蹴りですけど」
「それがどうかしたのか?」
「あの忍は、蹴られる際に自分の体を捻って、わざと自分の体に掛かる負担を大きくしています。つまり、自分が早く死ぬように動いているんです」
「そうなのか?」
「はい。そう考えると、あの忍は伊達の人間で、狙いは定行さんだったと考えられます。まず、素人じゃないなら政宗様に気配を察知されて完全に標的を外すとは思えません。それに、敵国の人間ならわざわざ自ら死ぬような真似しませんもん。早く死にたいのは、自分の主を分からなくするため。主が伊達の人間なら輝宗様の意思でどうとでもできますけど、敵国なら定行さんが忍に殺されたといって戦はできないでしょう?」
「でもよ、定行だって頬を掠っただけだぜ?」
「そこは動揺したんでしょう。相手は自分の腕には自信を持っているはずです。政宗様に察知されて動揺した、としか思えません」

定行がそうですね、と口を挟む。政宗と成実も何となく理解したようだ。

「ま、それは良い…で、女装してどうすればよいのじゃ?」
「後はですね——」


___



——そう、つまり、この少女は定行なのだ。髪は黒く塗られているため、特徴的な赤い髪は分からなくなっている。見た目だけで定行だと分かるのは、赤い瞳くらいだった。

「お茶持ってきて。忍の分も」
「は、はい」

定行は部屋から出て厨へ向かった。政宗と成実——勿論二人も女装しているが、二人は顔を合わせて溜息をついた。
暫くして定行が戻ってきた。部屋に入り、宗太郎に茶を渡す。そして、その時政宗と成実も部屋に入った。丁度、定行が忍の前に茶を置いていた。二人は忍の背後に回り、目隠しをとり——。