複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【目次リメイク】 ( No.528 )
日時: 2014/02/12 14:48
名前: ナル姫 (ID: A1dNtRhx)

「あはは、ざーんねん!殺せなかったね」

少年の愉しそうな声が響く。忍の目に定行が映った瞬間、彼は定行を絞殺しようと手を伸ばしたが、寸でのところで政宗と成実が刀を抜いて忍の首に当てた。忍は動きを封じられ、固まった。

「やっぱり、伊達家の人間だったね。定行さんの目だけ見て本人だって分かるのは伊達の人間くらいだもんね。さーて、洗いざらい話して貰おうかな?」

もう忍も諦めたのか、後のことは全て正直に話した。彼の主が木野家が嫌いなこと、彼の主の名、彼自身の名など、全てを明かした。
その後、その忍と主は処分を受け、この騒動は終結したのだが、ここで焦ったのは、他でもない、宗太郎の祖父──睦草西有だった。

「何!?宗太郎が忍の尋問に成功しただと!?」
「はい!この耳確かなことでございます!」
「聞きましたか父上!宗太郎は今後の睦草に必要な人材なのです!」

西有が快く思うはずがなかった。自分も意地になって、出来やしないと思って、宗太郎が自分を驚かせたら実子に戻すことを約束してしまった。いまさらこの約束を取り消すことはできない。だが、今まで全て武力に頼ってきた睦草の方針を今更返るというのも、西有には出来ない選択だった。兵三郎も、悠五郎も、今まで一生懸命に武術を学んできたのだ。それを、無駄にしろというのか。
だが、この悩みはすぐに解消する。西有は、急病であっけなく死んでしまったのだ。不謹慎極まりないが、睦草家の人間の殆どはこれを喜んだといって過言ではない。古いものに囚われていた厳しい老人がいなくなったのだ。これからは宗太郎を子に迎えて、新しい睦草を作っていけるのだと、父である伊継が何より喜んだ。弟の悠五郎も、兄の帰参を喜んで迎えた。宗太郎は帰参の際、名を尚継と改めた。
だが勿論、それを嬉しく思わない人間もいる。西有の絶対的な支持でいずれは睦草家当主の座を狙える立場にあった兵三郎だ。つい最近まで自分は睦草の中心で褒め称えられていたはずなのに、それが急に祖父が亡くなると消え去ってしまった。祖父の死を悲しまない人間と、自分から立場を奪った尚継を彼は許せなかった。

「何でだ…何で、何で!」

血が出るほど噛み締めた唇。だが、流れるものは血液だけで、答えはあふれる事はなかった。

「…御爺、様…」


___



月日は流れ、政宗と成実の初陣に伴い、尚継も初陣した。二人の武功が目立ち過ぎたことも手伝ってか、尚継の武功はあまり目立たなかった。

「伯父上!!」
「どうしたのじゃ兵三郎」
「尚継は戦には向いていません!此度の相馬戦でも、政宗様が敵に襲われる危機があったにも関わらず、何も出来なかったそうではないですか!」
「あのな兵三郎、尚継だってあれが初陣じゃ。責められることではない」
「いいえ、主君の跡継ぎが命の危機に瀕したのです。それをお助けできないのは睦草家の恥、是非家督はこの兵三郎に御譲りください!」

一方、尚継は相変わらず楽観的だった。

「へ?家督?あぁ良いですよ。継げと言われれば継ぎますし、他に譲るというのならそれはそれで構いませんから」
「あのなぁ…尚継、お前には誇りとかないのか?」
「まぁなくもないですけど、そのせいで睦草に内乱が起こるよりは譲歩したほうが良いではないですか」

大人だった。その回答を聞いたとき、兵三郎は負けた、と思った。心の底から負けを認めた。自分とは器が違いすぎる。このままでは、自分の我侭が通じて睦草を継いだとしても、自分ではこの家を潰してしまう。

「…糞」

さて、初陣の少し前、政宗の元に小さな従者がやってきた。竹葉清千代、幸孝の二番目の子供だ。だが政宗が彼を気に入ることはなく、まともに従者として受け入れることはなかった。

「父上、あれは使えません」
「まぁ、清千代はまだ子供じゃろう」
「にしたって子供過ぎます。いても邪魔です。あれより父上、欲しい従者がいるのですが」
「言ってみなさい」
「尚継です。あいつには将来性があります。あいつが欲しいです」