複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【五章】 ( No.532 )
- 日時: 2014/03/17 17:10
- 名前: ナル姫 (ID: A1dNtRhx)
まだ戦には戻れないのに、と思われるかもしれないと考えたが、彼は主に戦況を聞く。主はすんなりと答えた。
「一進一退、かな。そんなに変化は無いんだけど、長引けば完全に不利だろうね。今は涼影殿が頑張ってくれてるから何とかもってる状況みたい」
「流石の推察力ですね」
言うと、ぺろ、と彼は舌を出した。何かと思えば、政宗様から聞いただけだけどね、と返す。
「僕にはそんなこと分からないよ。ちゃんと両目がある僕より、隻眼の政宗様のほうがずっと視界が広い。まるで戦場を上から見てるみたいにさ」
少年が主である兄のことを自慢そうに言うのを見て思った。自分は、誇るべき従兄を嫌ってばかりで、人に自慢したことがあっただろうか。いや、そんな事は一度も無かった。したいだなんて一度も思わなかった。
「…浜継?」
「あ、あ、すみません。少し、考え事してて…」
「?そっか…あ、そうだ、お医者様から伝言!」
「?」
「傷が痛まない程度、明日から軽い鍛錬ならして良いってさ」
「!本当ですか!」
「うん。でも明日からだよ!」
「はい!」
___
四日後、浜継の戦場復帰が許された。その日に、事件は起こった。その日の戦場は敵陣に援軍が送られたと言うことがあり、敵の勢いが激しく、戦場はいつもより混沌としていた。政宗や成実が戦場に出て直接指示を出すほどに。
「下がんじゃねぇ!敵の罠に嵌んな!」
声が枯れる。頻繁に鉄砲の音が聞こえ、確り陣が保てているのかすら分からなくなってくる。
(…いや、保ててるわけねぇ。こんな…こんな状況で保ててるわけが…)
喉は唾を飲むことすら拒否した。それすら痛いと泣いている様だった。戦慣れもしている上に強い成実だって流石に疲れを感じている。体の弱い政宗に代わって最後まで陣に残ることも多い成実が誰よりも戦場にいるのだ。ここまで体が壊れていないほうが奇跡だろう。
彼はふと、程近くで家臣に指示を出す従兄の姿を見た。高い声で精一杯叫ぶ姿に苦笑、自分も頑張らねばと再び自分の隊に目を向けようとした、まさにその瞬間だった。林の中に鉄砲隊がいる。涼影があんなところに鉄砲隊を置くとは考えられない。となると確実に敵のものなのだが……。
(何やってんだ梵天丸…早く逃げろよ…)
政宗が中々逃げないのだ。もう鉄砲隊は火薬を詰め終わっている。早く、早く、と焦るも、政宗はまるでそれに気付かないようだった。
(おい…気付いてんだろ!?お前、自分の右側に敵がいるって…)
——右……?
「——ッ!!」
成実は馬を走らせた。間に合え、間に合え、と必死になって。
(何してんだよ俺…!そうだ、気付くわけねぇのに!当たり前すぎて忘れてたけど…一番俺達が忘れやすくて、一番忘れちゃいけねぇのに!)
あいつには右目がねぇんだ!!
「ッ…梵、避けろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおッ!!」
「えっ?」
声に政宗が振り向く。途端、彼の体は押し退けられ、地面に倒れた。その一瞬前には発砲の音が聞こえ、自分を押し退けた橙色の陣羽織が見えた。地面に倒れた瞬間、鋭い痛みが頬に走り、左目を苦痛に歪ませる。それでもその目は閉じず、自分の身代わりになって数発の銃弾を受けた橙を捕らえていた。
「しげ、ざね…?」
___
一方、睦草家——。
「こっちは敵来ないなぁ…定行さんの読みどおりってわけですかいね」
「…?今策を作ってるのは涼影様なんだろ」
「策自体はな。多分読んでるのは定行さん」
浜継は無言でいた。何とも言えない反抗心が渦巻き、自分の子供っぽさに嫌気が差す。溜息をしそうになったとき、遠くの方から銃弾を放つ音が聞こえた。