複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【五章】 ( No.533 )
日時: 2014/03/19 15:23
名前: ナル姫 (ID: A1dNtRhx)

「…向こうは」
「確か…色々いたと思うけど」
「…なぁ、尚継」
「ん?お前から俺に話しかけるのいつぶり?」
「う、うっせぇな!んでもねぇよ…」
「…分かってるよ、父上には上手く誤魔化そう。どうせあっち行こうって事だろ?」
「……」
「無言は図星の合図」
「ッせぇ!!分かってんなら行くぞお気楽天然どじ野郎!!」

尚継はへらへら笑って浜継についてきた。岡の上に上り、戦場を見て二人は震撼する。政宗が倒れている成実の前に立ち、五、六人の敵を相手にしているのだ。

「政宗様!成実様!」
「待て!浜継!」
「待てって、このままじゃ…!」
「このまま行くのはまずい。…そうだ、俺が政宗様の振りをして敵を引き付けるから、お前はそのうちにお二人を助けろ」
「お、囮ってことか…?」
「あぁ。早くしろよ。俺が伊達政宗じゃないって知られたら終わりだ」
「そんな、お前、そんなことして死んだら!」
「政宗様が死んだら、戦と伊達家は終わる」

そうか、とあっさり納得した自分が一番悔しい。役に立ちたい。この、何年も必死になって磨いた武力を発揮したい。

「…俺がやる、政宗様の振り」
「…は!?」
「いいだろ!!俺のほうが背は低いし、お前は初陣でも役に立てねぇし、第一この家で一番武勇を極めたのは俺だ!」

無言になる尚継に、力強い浜継の目力が刺さる。迷っている暇は無い。彼は頷き、死ぬなよ、とだけ言って従弟に背を向け、岡を駆け下がっていった。残った浜継は一度呼吸を落ち着かせ、手ごろな布で右目を隠した。視界の狭さに胸が苦しくなった。政宗様は、毎日こんな視界の中で生活しているんだ、なんて思って。

「聞け、者共!」

敵味方の視線が、一斉に浜継へ向く。

「我こそは、独眼竜伊達政宗!この首が欲しければ、立ち向かってみよ!!」

沢山の雑兵が浜継を目掛けて走ってくる。浜継は馬を政宗がいる方向とは反対の方向に走らせた。それを見ていた政宗の周りから敵はいなくなり、一気に気が緩んだ。思わずその場に座り込み、呟く。

「…あの馬鹿」
「政宗様!!」

声に視線を向けると、尚継の姿。尚継は政宗を立たせると、自分の馬に乗せた。序で、成実の息を確認すると彼を抱き上げてそのまま自分も馬に乗った。

「確り捕まっていてください!急ぎます!」

馬が走り出した。城に向かっている最中、政宗は同じことをずっと考えていた。

(俺は…また、大切な人を失ってしまうのだろうか…)


___



成美狙撃の話は真っ先に本陣と本宮城に伝えられた。まさかの事態に定行や涼影の軍師は顔を青くし、正室の光や母親の和は嘘だ、信じないと喚き立てていた。

「開門、開門!」

城の門が開く。尚継は成実を抱きかかえたまま馬から下り、すぐさま医者のいる部屋へ彼を運んだ。青ざめている成実の顔を見て、光がその場に崩れ落ちた。

「嘘…嫌、嫌…!」
「光…」
「いやぁぁぁぁぁああっ!!成実様!!成実様ぁっ!!」

辛うじて息はあるが、それだけのこと。彼が光の絶叫に返事をするわけが無かった。光の肩を抱き慰める和も、涙を堪えるので精一杯だった。尚継の馬を従者に片付けさせた政宗が城に入る。家臣が彼に寄って色々と体調を聞いていた。

「…頬を掠っただけだ…気にするな」

そして二人の姫に目を向け、言った。

「……済まない、叔母上…錦織御前…」
「…政宗、様…」
「…何か?」
「成実様は…成実様は、助かりますよね…?光を、置いて…行きませんよね…?」

言葉に詰まった。左目を細め、やがて作り笑いを見せる。

「行くものか…お主の事を愛しているあいつが」

それが、彼に言える精一杯のことだった。


___



暫く経った後、浜継が戻ってきた。彼は奇跡的に無傷だったが、事を知った睦草家の大人たちに散々叱られていた。

「…伊継、朝継、もう良い。こいつが儂の代わりをしてくれなかったら、儂等が死んでいた」

薄く微笑んだ政宗の顔は疲れきっており、目には生気の欠片も無かった。