複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【五章】 ( No.544 )
- 日時: 2014/03/26 18:10
- 名前: ナル姫 (ID: ohlIx/rn)
大森城、成実のいない彼の居城の留守を任されていた人のうちの一人の青年は、人取り橋からの使者が持っていた手紙を受けとった。定期連絡だろうと思いながら手紙を読んだが、すぐに顔が青くなり始める。手紙を受けとった青年は他の人がいる部屋に駆け込んだ。勢いよく襖を開ける。
「どーしたの、そんな顔して」
「九重殿…?」
「以下がなさいました?」
「出陣の…準備を…!」
手紙を受けとった青年ーー九重龍久は、珍しく息を荒くしていた。
「成実様が…撃たれた」
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ふと政宗は筆を止めた。続きは何て書こうか、単刀直入に成実が撃たれたことを書くか、先に謝罪を書き記すべきだろうか。そして息を吐き出すとまた書きはじめた。
『大森の留守をしている、楠木秋善、遠江満信、九重龍久、花袋折明に伝える。成実が敵軍の鉄砲隊に撃たれた。助かるか助からないかは分からない。いずれにせよ戦力不足には変わりない。四人に出陣を要請する。米沢から、誰でもいいから一人大森の留守を預からせるように。策はお前達がここに辿り付き次第、説明する。自分の不甲斐無さを許して欲しい。
政宗』
それが、彼らの元へ送られた文の内容だった。淡々とした文章だが、いつもの政宗の綺麗な字ではなく、余程急いで書いたのであろう、乱れていた。
「平常心を装ってみたが…無駄だろうな」
政宗は側に控える小十郎にそう漏らした。傍から見ればかなり落ち着いて見えるだろうが、側近である小十郎にはそう見えない。わかるのだ。心の奥底で、いままでにないほど追い詰められているのが。
(さて…どうするか)
小十郎も、彼なりに焦っていた。
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数日後の夕方、大森にいた彼らーー成実の直属の配下である、楠木秋善、遠江満信、九重龍久、花袋折明の四人が本宮城に来た。
「お召しにより、楠木秋善」
「遠江満信」
「九重龍久」
「花袋折明……以上四人、参上つかまつりました」
「ご苦労」
政宗は神妙な面持ちで彼らを迎え、まず成実が寝ている部屋へ案内した。襖を開け、四人は息を飲む。傷口が熱を持ったのだろう、高熱で、苦しそうに息をしている。呼吸は不規則で、たまに呻き声を漏らしていた。相変わらず光は彼の横に座っており、手を離さない。
「奥方様」
「休めと言っているのだが、聞かなくてな」
「…寝ていらっしゃらないのですか?」
満信が眉をひそめる。光はその思い口を開いた。
「…恐ろしいのです。この手を離したら、成実様がどこか遠くへ行ってしまいそうで…」
目の下の隈は酷く、髪は荒れ、身体は痩せていた。それでも彼女はずっと成実が起きるときを待っているのだ。もう、それは来ないかもしれないのに。
「…政宗様は…光を置いていくはずがないと、言ってくださいました」
目を背ける。そうだ、気休めにそう言った。それで自分にも言い聞かせた。どうせ、ある日普通に目を覚まして、よぉ梵天丸、なんてごく普通に挨拶をしてくるのだと。あいつならそうするはずだと。
「…策を言い渡す。来い」
政宗は襖を閉め、四人を自室へ連れていった。
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「家は河原から攻めるんや。皆はんには、政哉君、浜継君、隆昌はん、そして定行はんを連れて林の中から攻め入ってもらいますわ」
「何故河原から?」
「潰すやすいのと、定行はんを使えるようにするため。理由は急いでるんで省かせてもらうけんな」
四人は不思議がったが、今は聞かないほうが良いと判断し、そのまま話を聞いた。暫く涼影の話は続き、全てを説明し終わったのは夜だった。
「他のには伝えてある、明日決行してもらうで」
「はっ」