複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【五章】 ( No.550 )
- 日時: 2014/03/30 13:47
- 名前: ナル姫 (ID: ohlIx/rn)
景就、惨殺ーー話はすぐさま戦場を駆け巡った。それがただの討ち死にだったらどうだろう。蘆名家臣の小大名が潰れたというだけだったかもしれない。だが、その死体は無残であり、酷い殺され方をしていた。それが、敵軍を震撼させていた。更にそれは敵軍だけではなくーー。
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最上家ーー。
「惨殺…か」
当主、最上義光は届いた書状をくしゃくしゃにした。
「政宗…そうか、十年たったのだな…隠すことは止めたか…」
「義光様、政宗様は…」
「あぁ…これで分からなくなったな、勝敗が…まずいぞ」
だが、元々虚勢の塊のような甥が、成実が狙撃されたことで心身ともに弱っている事に違いはないだろう。そこを狙えばと、義光の鋭い目が光った。
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「そう、ですか……父上が…」
「あぁ、今し方連絡が届いた」
本宮では政宗が二人に早馬から聞いた話を教えていた。養父が惨殺されたーー今回の奇襲に、自分達が呼ばれなかった意味を二人は理解した。黙りこくった二人を見て、教えない方が良かっただろうかと無表情ながら困る。耐え切れずに部屋から出ようとしたときだった。
「気にしなくても大丈夫です」
白銀の声。見ると白金も頷いていた。
「自分の養父が何をしたのかは知りませんが、きっとそんな殺され方するくらい洒落にならない事にしたんでしょう?」
「……」
『何でっ…何で助けたの…?いっそ…いっそ殺してくれれば良かったのに!!』
「…そうだな」
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「…白銀」
「仕方ないでしょ、金兄」
白銀は畳みにねっころがり、天井を見た。そうだ、得に悲しくない。もしこれで死んだのが産みの親でも、二人は悲しまないだろう。それくらい、二人は家族に思い入れがない。幼い頃から二人で生きてきた。山を駆け回り、簡易な元服をし、盗みだって働いた。
「俺達が今置かれている状況に…感謝しなきゃ」
くしゃりと笑い、起き上がる。白金は黙ったまま動かない。白銀の顔は何かを想うように険しく歪んでいた。気まずい沈黙が流れると同時に、門の方から声が聞こえてきた。開門、と門番が大声をあげている。奇襲の一行が帰ってきたのだろう。二人はお互いの目を見ると、頷いて外へ出た。外へ出て、まず二人は何事もなさそうな政哉を見て安心した。が、その安心も束の間ーー次に二人が見たのは、大量の血に塗られた上司だったのだ。養父からの返り血であろう事は直ぐに予想できた。と、その時、二人とは反対の方向から政宗が現れた。
「ご苦労だった」
「はっ」
「…定行は早う身を流せ」
「…はい」
もっと生き生きしているのかと思っていた。定行と養父の間にいつ何があったのかは知らない。だが、何らかの因縁があったのは確かだ。自分達は、短い間とは言えその養父に育ててもらった身だ。定行が快く思うはずがない。勿論、定行本人がそれを口に出したことはないが。
「…金兄」
「……何だ」
「俺達…このまま政哉様に仕えてて良いのかな…」
「……」
さぁな、と白金は口にした。
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「…満足したか?」
「……」
「…聞くまでもないけどな」
嘆息。定行はやっと重い口を開いた。
「…あっという間でしたよ。こんなにもあっさり終わるのかなんて思ったら、更に憎くて…あの日、皆がどれだけ苦しい思いをしたと……」
「お前…良く金と銀の前で平気でいられるな」
「…関係ないって、言い聞かせてますから。二人は…元々捨てられる予定だったんでしょうね。河原に、子供があろうがなかろうが。きっと、子供が生まれたのは偶然です。それを大義名分にして二人を捨てる理由を作ったんですよ…」
「何故わかる」
「だって、政宗様」
定行は微笑んだ。
「あの子供は…生まれて間もなく死んでしまったんです」