複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【参照7000突破!】 ( No.556 )
- 日時: 2014/04/03 17:57
- 名前: ナル姫 (ID: ohlIx/rn)
「初耳だ」
「…言わなかったので」
「不自然じゃな。何故葬式も何も行われなかった」
「…あの二人が捨てられた直後、子供は死にました。葬式を行ったら、二人に子供が死んだことが知られてしまうかもしれませんから…」
そうしたら、二人は養父母の元へ帰ろうとするでしょう、と定行は続けた。全く、見事なものだと思う。定行が言った、二人に見覚えがないという言葉が本当なら、今の言葉は全て推測だ。それでも定行の言葉には説得力がある。屁理屈でも誘導尋問でも何でもない、理屈の通った話。
「…なるほどな」
彼等は敢えて会話を続けた。襖の向こうに、会話に出てきた兄弟がいるのを知っていながら。会話の途中、ドタドタと遠ざかっていく足音を聞いた。
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少し前、二人は浜継が彼の父から預かったという政宗宛ての書状を受け取った。浜継は今から米沢に伝達があると言って偶然すれ違った二人にそれを政宗様に渡してくれと言って風のように去って行った。それで、政宗の部屋の前に来て、これだ。聞いていられなかった二人は、自室に走って戻って行った。
「……どう、言う…」
「…………」
二人の会話を考えてみる。考えれば考えるほど、その現実は残酷だった。二人は元々、捨てられる予定だったと言うのか。確かに風迅と河原は交流の深い家だった。河原が途中で伊達に移り、また蘆名へ戻った理由はわからないが、少なくとも、今から河原は伊達へ行くから、ついでに子供を養子として出して捨ててもらおうと産みの親は考えていたーーと言うのだろうか。それなら、両親は余りに酷すぎる。信じられない……否、信じたくなかった。
「…っ…何だよ…俺ら、やっぱり邪険にされてたんじゃん…」
「……白銀」
「だってそうじゃんか!定行様がそういうんだよ!?それ以外何も考えられないじゃん!」
白金は崩れるように座り込んだ弟の隣に座り、何を見つめるというわけでもなく障子に視線を泳がせた。何も変わりはしない。歯を食いしばる白銀は、俯いたまま何も言わないのだった。
「……だからこそだろう」
「……?」
「俺達には帰る場所などない」
白金は、ぽつぽつと言葉を紡いで言った。
「俺達の居場所は……伊達政宗が統率する、この家だ。他のことは考えていられない…過去には戻れない」
珍しく沢山話した兄に多少の驚きを覚えた。それと同時に、受け入れざるを得ない現実をはっきりと見つめ、目を閉じた。
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「政宗さ、様!政宗様っ!」
「何じゃ佳孝」
翌日早朝、まだ日が昇り切らない時間に佳孝が急いで政宗のもとへ走ってきた。彼は一昨日の朝から米沢に行っており、定期連絡を任されていたのだが、戻るのが遅く政宗も心配していた。政宗は既に寝巻から着替えており、縁側に出て佳孝と話す。
「どうであった?米沢は」
「そ、それが…米沢に、最上様が…!」
「…!?何…!?何の用事じゃ伯父上は」
「軍はいませんでしたが、数人の家臣と一緒に、俺が米沢に着いた時に来…いらっしゃいまして!」
話によると、佳孝が米沢に着いたまさにその時、最上義光が米沢へ来たそうだ。米沢城は殆ど空の状態で、お東の傀儡となっている政道に適切な判断はできないと考えた佳孝は他の家臣に判断を委ねようとするも、城に残るのはお東を後援する者が多く、誰一人として適当な判断をしなさそうだったらしい。そこで佳孝自らどうするか判断をして下郎に指示を出したそうだ。取り合えず城に入れ、客間に案内し、政宗を呼ぶから数日待ってほしいと言い残して帰ってきた、ということだった。
「…成程」
「あ、あの、それで良かったで、しょうか?」
「あぁ、正解だ。良くやった」
政宗は立ち上がると、良く通る声で言った。
「米沢へ行くぞ!尚継と綾を呼べ!」
「はっ!」