複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【参照7000突破!】 ( No.560 )
- 日時: 2014/04/04 21:13
- 名前: ナル姫 (ID: ohlIx/rn)
「政哉様ー!あーそびーましょっ!」
「お前また…無礼な口を…」
突然入ってきた兄弟に、政哉は大きな瞳をパチクリさせた。当然の反応なのだが。
「…なんか…思ったより元気だね」
「へ?」
「その…河原家を滅ぼしたのになぁって思って」
自虐的な笑みを政哉は浮かべた。まさか、と兄弟の脳裏に嫌な予感が走る。自分達は特に気にしていないのに、この小さな主はそれに負い目を感じているのだろうか。
「…政哉様、俺達は本当に気にしてないんですよ」
「…でも」
「本当なんです。どうせ…いや、どっちにしろ捨てられた身なんですから」
その家に子供がいようといなかろうと、二人は確実に捨てられたのだ。今更未練などないのは本当だ。ただ二人は、政哉が『蒼丸』であった時、養父に大切に育てられ、兄の謀略にその養父を殺されたのを知らない。だから、気にするなと言い続けた。言えば言うほど、彼の心の傷が刔られるのも知らずに。
「…あのね、二人とも…」
「おい」
突如襖を開けて現れたのは政宗だった。笠を被っていて、どこかへ出掛けるであろう事は容易に想像できた。
「は、はい!」
「これより暫しここを留守にするが、敵軍には決してそれを知られるな」
「はい?」
「説明している暇はない。あとは小十郎に聞け」
政宗が言い切るのと同時に綾と尚継が姿を現した。政宗は二人を見て、行くぞと言うと早足でその場から去った。
「な、何だったんだ…?」
「さ、さぁ…」
白銀に続き政哉が言う。白金は大して動じておらず、政哉に向き合った。
「…所で政哉様」
「?」
「先程言いかけたのは…?」
「え、あぁ…」
政哉は言うのを躊躇っているのか、中々言い出そうとしない。だか一度息を吐き出すと、二人の目を見た。
「…無理することないよって」
「……」
「養父が関係しているかしていないかは分からないけど…二人の目、とても悲しそうだよ?」
政哉の瞳が心配そうに揺れる。二人は生唾を飲んだ。視線をそらし、歯を食い縛った。
「…定行が何か言ったの、聞いちゃった?」
「っ…!」
「定行ね、僕にだけって教えてくれたんだ。二人は捨てることを前提に貰われた身なんでしょうって。実の親は河原が伊達に一時的に付くのを知っていて、それで預けたのでしょう、裏で伊達の領に入ったら捨てることを約束していたのでしょうねって…何で河原が伊達に付いたのかは教えてくれなかったけど…」
本格的に分からなくなってきた。定行は自分達をどう思っているのか。嫌っているのではないかと疑った。だがその思いを見透かすように政哉は続けた。
「でもね、二人とも。定行は二人を嫌ってないよ。僕、定行の家族とか過去とか本当に何も知らないけど、定行が本当に優しいってことは知ってる。頭も良いし、自分が憎むべき相手は二人じゃないって事くらい分かってるよ」
政哉の顔は、少し寂しそうに、作った笑顔で歪んでいた。瞬間的に思った。主がこんな戦況で頑張っているのに、自分達は今更ここにいることへの疑問に悩んでいる場合ではない。主を支えるのは、従者の最大の仕事だ。
「…はい、政哉様」
やっと政哉も本来の彼らしい笑みを見せた。
「さて、じゃぁ遊びましょう!」
「…お前は…」
「駄目ー!これから戦でしょうが!」
部屋の外、襖の近くに立って会話を聞いてきた赤毛の青年は、私はそんな人間ではない、と小さく漏らしてどこかへと歩いて行った。
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政宗達は米沢へ急いだ。ほぼ休憩せずに馬を走らせ、体力が限界に近付く中、日没が近くなって漸く到着する。門を通り城内に入ると足音が聞こえてきた。佳孝より後に米沢へ派遣した浜継だ。
「政宗様っ!」
「浜継、伯父上は」
「怒っている様子はありませんが、お早く!」
政宗は笠を尚継へ投げると、そのまま綾を引き連れて客間へ入った。