複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【参照7000突破!】 ( No.561 )
日時: 2014/04/12 09:44
名前: ナル姫 (ID: ohlIx/rn)

襖を開く。そこに広がる、東館と似ている雰囲気。自らの伯父が発するそれに違いなかった。顔を見るのは、半年ぶりだ。父、輝宗の葬儀の際に少し顔を合わせただけで、政哉の婚儀には来たものの顔は見なかった。最大限避けてきた、それでも生きる上で決して避けられない相手ーー最上義光が、そこにいた。

「御久しゅうございます……伯父上」

頭を下げると、野太い声が降ってきた。久しぶりだな、と何か悪意のようなものを含むように聞こえる声が彼の耳に纏わり付く。

「会いたかったぞ、藤次郎」


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「えっ…それで、綾殿と尚継殿を連れて米沢へ!?」
「えぇ、それを敵に知られてしまってはここぞとばかりに攻めて来るでしょうから知られぬようにと言って出かけられたのです」

政宗が先程慌てて出掛けて行ったのはそういう訳だったのか、と政哉は納得した。

「それで、片倉様が代わりに指揮を?」
「えぇ。成実は生死の境目をさ迷っていますし定行は前に出て指揮をするような人ではありません…全く、最上も面倒を起こしてくれますね」

苦笑いして小十郎は采配を撫でた。そして政哉を見る。

「では…出陣と参りましょうか」


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「儂はな、藤次郎。可愛い甥が苦しんでいるのを見ていられぬ」
「……」
「そこで、お前に協力しようと思う」

政宗は青っぽい瞳を義光に向けた。血縁とは言え義光とは少し色が違うのだが、確かに全体を見てみるとその顔はどことなく似ている。

「…何か、条件があるのでしょう?」
「ほう、鋭いな」
「お聞かせ願います」
「そう構えるな。何、条件等と言いはせんよ。ただ…伊達の領地を、最上が間接的に管理することはあるかも知れぬと言うことじゃな」

何だ、結局はそうじゃないかと政宗は眉を潜めた。さっさと追い返すに限る。適当な言い訳を作って帰してしまえ。

「…お心遣い、大変痛み入ります、伯父上。しかしこれは伊達の戦です。伯父上の御手を借りずとも、必ずや勝って見せます」
「参ったのぅ」

予想外の反応に顔をあげる。普通そこは大人ならば大人しく引くところではないのか。

「連合軍側に、協力を頼まれていてな…お前に味方するのを言い訳に、断っていたのだが」
「ーーッ!」

そういうことか、と両手を強く握る。協力要請が嘘である可本当であるかはどうだって良い。ただこの人は、伊達に協力した場合はその協力を盾に伊達の領地を管理し、連合軍に協力した場合は伊達を潰してその領地を奪おうと、そう考えているのだろう。協力を断れば、伯父は間違いなく伊達を攻めて来る。汚い手を、とは思うが、二人は何でもかんでも歯に衣を着せぬようなことを言い合える親戚ではなかった。

「…どうする?」

判断が急かされる。どうする、どうすると頭は混乱を始めて頭痛さえした。

「…少し…時間をください……明日には、答えを出します…」

ふん、と鼻を鳴らし義光とその家臣は部屋を出た。用意された客室へ行くのだろう。どっと汗が流れた。歯を食い縛り、拳を固く握る。

「い、如何なさいますか」

綾が緊迫した表情で政宗を見る。尚継も心配そうに政宗を見ていた。

「……」

成実が使えない。定行は分からない。涼影は連合軍との戦いで精一杯だろう。小十郎には現場での指揮を任せている。いっそ、最上が気に入っている政道に領地管理の条件を交渉させてみるか。いや、無駄だろう。あの伯父が約束を守るとは思えない。

「…綾」
「はい」
「伯父上の協力を受けたとして…その後、どうなると思う?」
「え…」

あまりにも抽象的な問いに綾が戸惑う。横から尚継が声を挟んだ。

「最上は裏切らずにちゃんと味方するのか…ということなら、それは否ですね。協力すると言って軍を出したところで何もしないのは明白。それどころか裏で連合軍と繋がっている可能性すらあります。政宗様、これは断るべきです」
「だがっ!」

声を荒げた政宗を制するように、なので、と尚継は続けた。

「こんな時の為の、話術でしょう?」