複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【五章】 ( No.562 )
- 日時: 2014/04/17 18:29
- 名前: ナル姫 (ID: ohlIx/rn)
「あのねぇ…」
武装した少年は手で眉間を抑え、溜息を付いた。目の前には年明けに結婚した年上の少女ーー紅が薄く微笑んでいる。愛の戦場に出て役に立ちたいと言う意思を政宗が一蹴してしまった時は、酷い事を、と思ったものだが成程、確かに来られても迷惑である。
「紅、僕だって初陣なんだから米沢にいてくれって…」
流石に愛のように武装して戦へ出ようと言う意思はないように見えるが、来られただけでも困る。そう思うと政宗や成実はもっと大変なのだろうとうっすら考えた。
「蒼丸様、言っておきますが、私は三春様(愛の事)のように戦場に出るつもりはございません」
「で、出させないよ…」
紅は、政哉よりも蒼丸の方が親しみがあるため彼を幼名で呼んでいた。政哉自身それが嫌という訳でもないため何も言わない。たまに、子供扱いされている気分になるのだが。
「…じゃぁ、何しに?」
「錦織様がふさぎ込んでいると聞きまして」
「…誰から聞いたの」
「浜継さんから」
ニッコリと彼女は微笑む。勿論最初は言わないでいたが、問い詰めたら諦めて吐いたそうだ。
「…光様のご迷惑にならないようにね」
「はい」
困ったような意味を浮かべつつ、政哉は紅に許可を出した。
___
『いや…話術とは言え伯父上に何をいえば良いのじゃ…』
『うーんと…まぁとにかく俺に任せてくださいよ!』
そう言われた翌朝、政宗達と最上の人間達は同じ部屋に来ていた。
「答えは決めたか、政宗」
「まぉまぁ最上義光様!ちょーっと私の話を聞いてはくれませんかねぇ」
「…何だ、貴様は」
「睦草家嫡男の睦草尚継と申します」
「私は政宗に用がだな…」
「まぁまぁまぁまぁ!雑談交えながらっていうのもたまには良いじゃないですかぁ」
へらへらと笑う尚継に調子を崩されたのか、舌打ちをしたものの義光は話を聞く姿勢を持った。
「いやぁ、大変ですよねぇ、このご時世!織田が消えたと思ったら豊臣がこの国を掌握し始めて、いつの間にやら西を手に入れてます。小田原や東北もいつ落ちるか…なのに、こーんな若輩者が統率する一族なんぞに翻弄されてたまるかーっ!」
にやりと笑い、尚継は相手の顔色を伺った。義光は気軽な雰囲気が気に障ったのか、尚継を睨みつけている。
「…なーんて、感じですかね?」
その場が静まり返る。綾や浜継、そして政宗は尚継の言葉をヒヤヒヤしながら聞いていた。義光を怒らせるには十分過ぎる要素が備わっていた。いつ刀を抜いたっておかしくはない。だが流石は尚継と言うべきか、義光は溜息をついただけで他に反応は示さなかった。
「まぁ、気持ちはわかりますよ?もし私が伊達と対立してる大名だったら、やっぱり早く潰したくなりますもん。なんせ、この人は強いんだから。あぁ勿論政宗様は個人も、家臣達の力を合わせても」
「主を称賛するのは良いことだが睦草よ」
「慢心させるのは良くないぞ、ですか?」
義光の考えを見透かして尚継が声を出す。ぎり、と義光は歯軋りをした。尚継はどこか満足そうに口元を緩ませ、話を続けた。
「…さて、本題に移りましょうか。最上様、連合軍に協力要請をされているらしいですが…でしたら、何故わざわざ政宗様にそれを報告する必要があるのでしょう」
「それは、政宗が甥であるからで…」
「でも政宗様は最上に助けてくれなんて言ってないですよ?」
「だが」
「てゆうか、助けるつもりあるんですか?伊達を?最上が?お東様の輿入れだって仲良くするためと銘打って、結局そんなことできてないのに?助ける理由なんてどこにあるんですか?」
畳みかけるように尚継は喋る。反論の要素がなくなって来たのを確信し、更に畳み掛けようと口を開いた。