複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【五章】 ( No.564 )
日時: 2014/04/29 17:31
名前: ナル姫 (ID: ohlIx/rn)

最上義光は自分の城へ帰った。妹の命があるならば仕方ないと言い残し、やや憤慨しながら帰った。彼の気配が遠ざかったとき、政宗は力が抜けたように両膝を床につけて震えていた。

「……にを………何をなさっているのですか!母上っ!」

滅多に聞かない政宗の怒鳴り声。彼女は息子には目もくれず、ただ目を閉じていた。

「伯父上が妹のためなら仕方ないと去ってくださったから良かったものの、もし、本当に戦をするつもりだったら」
「母と呼ぶでない」

彼女は政宗の懇願するような声には耳を貸さずに、それだけ言って立ち上がり、その場を後にした。実は、家臣達が政宗と保春院がこうして話すのを見たのはこれが初めてだった。政宗の家臣となってから、お互いがお互いを避けていたため、二人が会うことはなかった。しかも、政宗が自ら進んで母親の話をすることもなかったのだ。

「……」

沈黙が訪れる。何とか場を取り繕うために、尚継が言葉を出す。

「…とにもかくにも、米沢の問題は一先ず解決しました。戦場へ戻りましょう、政宗様」
「…あぁ、そうだな…」

答えた瞬間、襖が開いた。

「!定行…どうかしたか?」

襖を開けた本人ーー定行は、久しぶりにその顔に笑みを浮かべていた。息が切れていて、よほど急いだことが伺える。

「……まが……」
「?」
「し、成実様が、お目覚めになられました!」

皆が息を飲んだ。そのうち、顔を見合わせて泣きそうな顔で笑い、歓喜の声を挙げる。

「やった!成実様ご無事だったんだ!」
「良かった…あのお方が亡くなったら私達は…!」
「流石成実様だ!現世に踏み止まって下さった!」

政宗はポロポロと左目から涙を流し、同じく涙を流しはじめた定行に、ありがとうと繰り返した。


___



一昨日夜ーー。

「光様、皆貴女を心配していらっしゃいます。お休みに…」
「嫌です。絶対に成実様から手を離しません!紅様だって、もしも政哉様が同じ境遇になったらこうなります…」
「いい加減になさって下さい!貴女は戦況が悪いときにそんなことをして、兵の心配は貴女にも回ります!そうなれば士気は下がる一方です!」

紅が頑なになっている光の頬を遂に叩こうとしたときだった。紅の手首は誰かに捕まれ、動かなくなる。見ると、銃弾を受けた男性が、うっすらと目を開けて紅の手首を掴んでいた。

「……俺の嫁さん、傷つけねぇでやってくれるかな…紅ちゃん」
「し…げざね様……?」
「…光……なんか、痩せたか……?」
「っーー成実様!成実様!!」

光は成実に抱き着き、紅は呆気に取られてそれを見ていた。まさか、今目を覚ますとは。光の嬉し涙を見て自分も泣きそうになったが、今は泣いている場合ではない。

「医者を呼んで参ります!」

暫くして医者と定行が部屋に来た。

「良かった!お目覚めになられたのですね!」
「……っ…もう、時…どうなるかと思ったじゃないか……」

気が抜けたのだろう、定行はいつもの敬語ではなくなっていた。

「悪いな……定行…梵天丸は…」
「諸事情あり、米沢へ」
「…そうか…」

理由を考えられる程余裕はないのだろう。その事実をあっさり彼は受け入れた。そして定行は目が覚めた友人との会話もそこそこに、政宗にこれを伝えに走ったのだ。

「…全く…嫁が叩かれそうだったから目を覚ますとは…あの馬鹿らしいわ」
「えぇ、本当に」

怪我が完全に治るまでは今暫く時間がかかるだろうが、このことによって定行が普段の定行に戻っていることを感じた政宗は確信した。これで、伊達は完全に復活したと。また、家臣達も、統率力を持つ政宗に、猛将の成実、そして木野の鬼才定行が揃えば向かうところ敵無しだと思った。
ーーきっと勝てると確信した。
そう、まだ伊達対奥州連合軍の戦いは始まったばかりなのだーー……。