複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【二周年ーーーー!】 ( No.568 )
日時: 2014/06/21 20:56
名前: ナル姫 (ID: 0L8qbQbH)

「…成実」
「……梵天丸、久しぶりだな」

溜息を一つ、政宗は成実の側に座った。

「意外に元気そうではないか」
「簡単には死なねぇさ」
「だろうな、馬鹿は死なない」
「わぁ酷ぇ」

苦笑する成実に政宗も薄く笑みを返した。そして立ち上がる。

「行くのか?米沢に行ったんだろ、なら少しくらい休んだら…」
「休めるほど暇でもない」

部屋から出る際、成実の方を振り返り彼は言った。

「貴様もとっとと動けるようになれ。……この戦ーー勝つぞ」


___



「……様、政哉様」
「ふぇあっ?」

成実の目が覚めた翌日、間抜けな声を出して政哉は起きた。よほど疲れているのか、あろう事か本陣で寝てしまっていた。

「ふぁ…隆昌…」
「風邪を引きますよ」
「ん、ごめん…」

目を擦り、横においてあった兜を被る。紐を結び、立ち上がった。

「本陣だったから良かったものの、これが分隊の陣であったらいつ奇襲されるやもしれませんよ?」
「ごめんって……」

本当に分かっているのだろうか、この主は、と溜息をつくと、自分に視線が注がれているのを感じた。隆昌は視線の持ち主であろう小さな主を見る。

「…どうかしましたか?」
「隆昌ってさ、分隊は危険だって話よくするよね」
「あ……」

政哉が興味津々というような瞳で見てくる。興味津々というよりは、家臣のことを知っておきたいというのが本心なのだろうが。

「……政哉様は、人をよく見ていますね」

隆昌が諦めたように首を振ったのを見ると、彼は話を聞く姿勢を持った。

「と、申し訳ございませんが、陣中。ここでは話せません。また城に帰ったらに致しましょう」
「約束する?」
「えぇ、勿論。何故疑います」
「……」

政哉は言った。前、定行と同じ約束をしたんだ、と。けれど彼は結局、主に何も言わなかった……彼の過去を。

「…定行様のこと、ですか…」
「…定行とは七年も一緒にいるのに、僕って定行のこと何も知らないから…」

家族関係も知らない、政宗や成実とは友人なのだろうが、その経緯も知らない、どうして自分の教育係に養父が抜擢したのかも知らなければ、定行の軍司としての実力も実際のところは分かっていない。

「…政哉様」
「何?」
「米沢から帰ってきた定行様と会話をしましたか?」

政哉は首を横に振った。米沢から帰ってきたときどころか、河原に奇襲を仕掛けた時以来言葉など交わしていなかった。隆昌が言うには、米沢から帰った定行には、成実が目覚めたこともあってか普段の彼であったという。

「…本当?」
「勿論!確かに私も定行様のことは詳しく知りませんし、河原襲撃の時の定行様には少し狂気すら感じましたが、私が知っている定行様でしたよ。ですから、ちゃんと定行様とお話しくださいませ、我が主」

優しい笑みに、政哉は戸惑いながらも、しっかりと頷いた。


___



「おーい兎ー!遊びに来てやったぞー!」
「うわ、ちょ、弥三郎!また勝手に来たの!?」
「門番は通してくれたぞ」

彼の親友は、幼名を弥三郎といった。もっとも、名を変える前に死んでしまったのだが。彼は足軽の子だった。それでも、よく城下に気を使い農民達との交流も多かったため、足軽の子である弥三郎も御林の城に出入りできたのだ。苗字のなかった彼は武術に優れ、初陣を済まして武功をあげた暁には彼に苗字を与えることを兎丸ーー後の隆昌の父、央昌は約束していた。

「もらうなら『木』がつく苗字が良いな!」
「どうして?」
「だってお前は『御林』だろ」

林といのは木があって成り立つ。御林家が、将来自分の家があってこその家となる為に、彼は『木』のつく苗字を欲しがった。

「ふふ、木野とか?」
「ダメダメ木野はダメ!だってすごく頭良いのに俺が入れるか!」

御林家の梵天丸と時宗丸ーーそんなことを周りの人は言って、微笑ましく見守っていた。
彼は伊達とは交流はなかったが、兎丸とはずっと友達でいた。僕らの友情は何があっても崩れない、と二人は言い合った。
時に二人はぶつかった。武家の子として生まれた兎丸と、足軽の子として半農の生活をしている弥三郎とでは、全てに対して意見が合うということはなかった。

それでも、本当に仲の良い二人だった。