複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【政宗はぴば!】 ( No.582 )
- 日時: 2014/08/14 11:02
- 名前: ナル姫 (ID: xRhmB4K7)
−−そもそも二人の口論とは何だったのか、それは『大将とは何たるか』という意見の食い違いから始まった。大将とは皆を纏め、守るものだと主張する兎丸。対称的に、大将とは全ての上に立つものとしてあり、守られるべき存在であるものと主張する弥三郎。
徐々に話の論点は擦れ、最終的には兎丸が感情任せに農民を侮辱してしまい、弥三郎の怒りに触れて二人は絶交していた。
そして互いに解り合えず、謝ることすら出来ずに、弥三郎はその短すぎる人生の幕を閉じた。
その一方で、伊達本家と分家の跡取りは、初陣とは思えない功績を挙げていた。農民が一人死んだくらいで家臣の関心が『御林家の梵天丸と時宗丸』と呼ばれた兎丸と弥三郎の死別に向くはずもなく、彼の葬儀は非常にひっそりと行われた。
問題は、その家の後継者だった。
弥三郎が生まれた家に残ったのは、彼の病弱な母親と二歳年下の妹だけで、実は彼の父親も今回の戦で死亡したのだ。女二人でどうにか出来るはずがない。しかも母親は間もなく病に倒れ、娘の苦労を考えた母親は彼女を奉公に出した。弥三郎が生きていた頃は妹にも良く会ったものだが、奉公に出されるとそんなこともなくなった。母親はその後、すぐに死亡。村人が小さく葬儀を行ったらしい。勿論御林家は自分達で弔おうと村人に掛け合ったが、弥三郎の死亡理由を知っている農民達から猛反発され、あの場で無礼者を斬ってしまえば良かったものの、何故かそんなことはできなかった。
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「……それ以来、嫌になりました……誰かが自分のせいで死ぬということが……彼の父親も母親も、妹も、私は救うことができなかったのです」
「…妹さんは、どうして御林の奉公に来なかったの?」
「そりゃぁ……母親だって、夫と息子を殺した家の奉公になど出したくなかったのでしょうね……彼女は今どうしていることやら…出来るものなら、迎えに行きたいとも思いますが……」
そっか、と政哉は言った。
「隆昌は、その子のことが好きだったんだね」
柔らかい笑みで、何の恥じらいもなく。
「……はい、初恋でしたね」
少し頬を赤く染めて。
「今でも好きなの?」
「…いえ、今は…どちらかと言うと妹のような感覚なのでしょうね」
少し微笑んだ後、主に従者は、そろそろ遅いからお休みください、と言った。素直に頷いた主は部屋を後にし、自室へ戻る。その途中で。
「あ……定行…」
「ま、政哉様! まだ起きていらしたのですか!?」
そして政哉は思う。
(いつもの……定行だ)
「もうこんなに遅いではないですか」
「ご、ごめんなさい…」
溜息の音。少しの間沈黙が訪れるも、すぐそれは破られた。
「……最近、私おかしかったですよね?」
「……」
「…申し訳ございません」
深く頭を下げた定行にかぶりを振る。気にしないで、と言いながら。
「何かあったんなら……仕方ないよ」
深くは詮索しない。
「……はい、政哉様」
赤毛は微笑み、もう一度頭を下げる。そして歩き出すが、その方向は彼の部屋とは違う方向だ。
「定行、寝ないの?」
「あぁ、はい。妙案が浮かんだもので」
「妙案?」
「はい」
その顔は、彼が浮かべた笑みは−−何かを確信した、軍司の瞳だった。
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翌日、定行の策はまだ使われていないのか、それとも効果が無かったのか、戦況に変化が訪れることはなかった。しかも成実がまだ動けない状態で、このままでは危ないことは明白だ。
その日、隆昌の腕に一本の矢が切り傷を作った。
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「聞いたよ隆昌!腕を怪我したって、大丈夫だった!?」
「あぁはい、たいしたことはないので」
城にて、隆昌は年配の侍女から怪我の手当を受けていた。元気そうな彼を見て、政哉は安心する。と、その時、手当を手伝うために来たのであろう一人の若い侍女が水の入った桶を持ってきた。
「……?見ない顔だな」
「この者は、最近入った者でして」
答えた年配の侍女。若い侍女は頭を下げ、お幸と申しますと名乗った。隆昌がわずかに目を見開いた。
「……幸、ちゃん……?」
「……はい……兎丸様」