複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【五章】 ( No.586 )
- 日時: 2014/08/25 13:32
- 名前: ナル姫 (ID: VlEkFmzy)
「……幸、ちゃん……?」
「……はい……兎丸様」
時間が止まった。二人は泣きそうな、嬉しそうな顔をして何も言わずに抱き合った。理解が追いつかない年上の侍女と政哉は呆然としていたが、隆昌から話を聞いた政哉は段々と理解できたのか、微笑して二人を見守った。
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「私は兄様が死んだ後、私は商人の家に出されました。悪くない待遇でしたが、そこの旦那様も昨年病に倒れてしまわれまして、先月亡くなってしまわれました。私はどうしても兎丸様にお会いしたくて……数日前、ここを訪れたのでございます」
「……そうだったんだ……でも、幸ちゃん、俺を恨んでいないの?」
「私は兎丸様を恨んでなどおりません。兄様は、自らの意思で兎丸様を守ったのです。自らそれを望んだのです……だから、私は兄様の意思を尊重します。それに守られた、兎丸様の御命も」
隆昌は嬉しそうに微笑み、幸の頭を撫でた。
「……ありがとう、幸ちゃん……でも、一つ訂正」
言うと、彼女の頬を軽く抓った。
「俺の名前は、守士郎隆昌だ」
「守士郎隆昌……素敵なお名前です」
ふんわりと微笑んだ彼女に、彼も笑った。
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その日、政哉は結局城の中にいた。
「退屈そうですね、成実様」
「まぁ、退屈っちゃ退屈だわな…でもまだ腹部凄く痛いぞ」
「御前様はいかがなさいました?」
「あー、光は寝てるよ。何日も寝てなかったって聞いたし……」
苦笑する成実。その気持ちは嬉しいけれど、気恥ずかしくて、無理しないで欲しい、そんな様々に感情が混ざっているのだろう。
「……なぁ、蒼」
「はい?」
「意識ないときにさ、変な夢見たんだ」
夢?と政哉が復唱すると成実は頷いた。
「昔の、昔の夢……もう忘れたような記憶だ」
政哉を見て、聞くか、と尋ねると、政哉は頷いた。
「……俺の親は知ってるよな?」
「はい、十五代様のご兄弟の実元様と、父上の妹君の和様……叔父と姪のご結婚ですよね」
「あぁ…俺さ、分家なもんだからさ……お前や政道みたいに、梵を支える立場にあったんだ。本当の主君は輝宗様だったけど、どうしても、気持ち的には梵の方が優先でさ」
「……」
「父上も母上もそれは分かってくれたから、叱られるとか、そういうことはなかった。でも……梵を早くから支えるのは、大変だった」
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(何だ、ここ……糞、真っ暗だな……)
足が重い。中々前に進めなかった。ふと気づく。自分は何かを握っている。見ると、五文を握り締めていた。段々と目が慣れて来たのか、ここがどこなのか理解できてきた。
(……三途の……川…何だそれ、笑えねぇ)
しかも持っているのは五文。これでは川を渡らせてはくれない。
(……往生際の悪い奴だな、俺は……)
苦笑してみる。しかし、渡れないにしても戻る道も分からないから動きようがない。
その時、後ろから肩を叩かれた。誰だか全く分からない。
「……どちら様?」
何か言っているが、聞き取れない。だが必死で何かを訴えている。
瞬間、目の前が真っ暗になった。
(何だ……!? 一体何が……)
思わず目をつぶる。だがわずかな明かりを感じ目を開くと、蝋燭が灯っていた。周りを見れば、輝宗や基信、福孝や綾将がいた。
「こ、こは……」
「驚かせて済まないな、成実」
と、輝宗。理解が追いつかないが、不思議と驚くことはなかった。
「お久し振りです、成実様」
「お久し振りです」
福孝に続いて綾将が頭を下げた。
「あ……おう」
「成実、お前、どうしてここにいる?」
「どうしてって……」
成実は自分の腹部を摩った。
「……梵の身代わりして、撃たれて……」