複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【五章】 ( No.587 )
日時: 2014/08/30 13:11
名前: ナル姫 (ID: .9bdtmDI)

「……な、何ですか、その夢…」
「さぁ…夢に何それって言っても仕方ねぇしな……」

成実は苦笑し、続けた。


___



「そうだ。お前は、死にかけている」
「……そっか、死にかけ…じゃぁ、一応助けられたんですね」

安心したような、虚しいような、変な気持ちだった。

「成実、お前はこれからどうしたい?」
「どうって……それって俺が決められる事なんですか?」
「あぁ、決めろ」

簡単に決められる事ではない。自分が生きて現世に戻ったとしたら、死んであの世に行ったとしたら、伊達家の未来はどうなるのだろう。
主を守って死ねたならそれはそれで本望だ。だが……。

「…どうする、べきなんだろう」
「…お前は頑張りすぎだ、成実。少し眠ると良い。その中で答は見つけなさい」

トン、と人差し指の先を額に当てられた。途端、眠気が襲ってくる。

(……あれ、何だろう、あそこで……誰かが、泣いてる……)

『−−、−−』

(何で、泣いてんだ……?)


___



「夢の中で、また寝たんですか?」
「寝た、というか…瞑想?みたいな感じかな……」

どこか遠くを見るような瞳。その瞳は濃い茶色だったが、光の角度によっては橙にも見えた。

「……過去の自分を見てた」
「……」
「…懐かしかったよ」

無邪気な子供が、悪戯を思い付いたような笑顔。そんな笑顔に苦笑して。

「…成実様」
「ん?」
「成実様の過去、教えてくださいますか?」

少し目を見開く。やがて苦笑した。

「…俺の話なんか、聞いたってつまらねぇぞ? 梵天丸のおまけについて来るようなもんだ」
「でも、この場においては主人公です」

笑顔に押され、また苦笑。

「……そうだなぁ……」


___



「おっめでとー!」
「これはめでたいですね」
「え…ちょ、ちょっと待て、それ本当なのか?」
「そ、それって良いんっ……ですか!?」
「あ、あの、落ち着いてください……」

夜、城で数人が一緒に風呂に入っていた。
成実の家臣である秋善と満信、政宗の家臣である佳孝、そして政哉の家臣である浜継と隆昌。面白そうな秋善と満信、顔が真っ赤な佳孝、そして唖然とする浜継に、困った顔の隆昌。

「何度も言いますが、私はただ初恋の人と再会しただけで……その、結婚とは一言も……」
「でも実際したいんじゃないのー?」

ニヤニヤと問い掛ける秋善。言葉を詰まらせると更に笑みを深くしてくる。

「どーなの?ねぇ?」
「……そ、そりゃぁ、その……」

ゴモゴモと言葉を濁す。浜継と佳孝は固唾を呑んで言葉の続きを待った。ただ一人、満信は苦笑して。

「し、したくないと言えば……嘘になりますが…」
「ヒューッ!」
「や、やめてください秋善殿っ!」

わずかに頬を紅潮させ、秋善を制する。クスクスと笑う満信が口を出す。

「まぁまぁ、それくらいにしておきましょう」
「はぁい」

まだニヤニヤしながらではあるが、囃し立てるのを止めた。溜息を吐き出して、隆昌は目を伏せた。

「……まぁ、でも良いんじゃない?真面目な話」
「へ?」
「だってさ、好きな人と一緒になれるのが良いでしょ?」
「し、しかし……俺は側室の子です……政略に使われるのが当然でしょう」
「側室として貰えば良いじゃん。てゆうかそしたら成実様も政宗様も正室の子で長男だけど政略に使われてるんだしさ」
「そうではなく、婿に出させる可能性も……」
「なるほど…否めませんね」

少しの静寂が訪れるが、すぐに破られた。

「…でも俺も…好きな人と結婚できた方が良いと思う」
「佳孝殿…」
「俺の家なんかは、父上と母上が仲悪くて…嫌だったし。子供からしても、政略だから仕方ないって割りきっても、寂しいと思うんだよな」
「ですって、隆昌殿」

にっ、と笑って浜継が隆昌を見上げた。そして言った。頑張るのも、一つではないか、と。

「実際成実様も、悩んでいらっしゃったらしいですしね」
「え!? そうなの!? 輝宗様に御前様が可愛いって言われて二つ返事で了承したって聞いたけど!」
「表でしょう、それは」

満信は続けた。

「……あのお方は、色々抱えすぎています」

政宗を支え続けた親友、成実の話。