複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【末広がり参照八千】 ( No.593 )
日時: 2014/11/19 19:09
名前: ナル姫 (ID: qrfsNuOz)

戦況は、伊達が不利であることに変わりはない。だが、反撃はこれからだ。定行が河原の脱落で安定した。成実が目を覚ました。戦に出れるまではまだ時間はかかるだろうが、取り合えず陣の立て直しくらいは出来るだろう。

「佳孝、政哉に家臣を引き連れて西へ回るよう伝えて来い」
「はっ!」
「尚継、貴様には成実の家臣を引き連れてもらう。東へ回れ」
「はい」
「小十郎は定行からの連絡を受け取れ」
「はっ」

それぞれが指示通りに動きはじめる。橋の上での今日の働きで明日の明暗が別れる。政宗はただ、向こうでうごめく敵を見つめていた。


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「はぁぁぁっ!」
「すっかり様になってますね、政哉様!」
「ありがとう!浜継!」

にっと口角をあげて、政哉は剣を振り回した。確かに、戦で初めて刀を持ったときと比べ、政哉はかなり武芸が上達していた。なんだかんだ言っても子供だから上達が早く見えるのか、それとも−−その答まで、導くことはできないが。
長い間信頼してきた教育係が、普段通りの彼に戻ってくれたのが、少年にとって大きな安心要素になっていた。そのため、今日はいつもより強く、逞しく、刀を振ることができる。

「金、銀!隆昌の方に回って!」
「はい!」

幼いながら家臣を指揮する姿は戦国武将そのものである。やはり、優しい政哉にも政宗と同じ血が流れているのだと、浜継はつくづく感じた。主に負けてはいられないと槍を構え直した、その時。

「ぐっ!?」
「!政哉様!?」

ガラン、と何かが落ちる音。少し目を離したすきに、政哉が敵兵に捕らえられていた。兜が落ち、髪を捕まれていた。助けに行こうとするが、捕らえた敵兵は政哉に刃を宛がっている。だが、政哉を怯えさせるわけにはいかない。

「っ……お待ち下さい!いますぐお助けしますから!」
「大丈夫!大丈夫だから僕のことは気にしないで戦って!」
「なっ……し、しかし!」
「言うこと聞かないと怒るよ!」

子供らしい物言いで、それでも一杯に浜継を睨む瞳に迷いはない。

「ッ……!!」

選択できない。やがて主を信じ、背を向けて走り出した。

「……僕だってそれなりに覚悟はしてきたんだ」

まさか、と敵兵が政哉を見る。政哉は短刀を抜き取り、自分の首筋に当て−−。


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「さーって、主の代わりに働くぞー!」
「相変わらず元気の宜しいことで。安心いたしましたが、どうか真面目に」
「……まぁ、頑張ろうか」
「…………」
「あれ、最後の人が無言なんだけど。何で?」
「分かりきってたことでしょー、尚継殿?」
「うん、そうだった」
「大丈夫!一度戦場に出れば折明殿が凄いから!色んな意味で!」
「楽しみになって来たかもしれない」
「真面目にと言ったのが聞こえなかったかね?」
「済みませんでした」
「勘弁してください」

気軽な雰囲気が漂う成実の家臣達と尚継。全く、と言うように満信が溜息をついた。

「と、まぁ本当に真面目に。準備は良いかな?」
「無論!」
「行くぞ!」
「ハッ!」

尚継の合図で、隊は丘の上から駆け下りた。


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にいっ、と口角が上がった。銀髪の青年と少女は背を合わせ、向かって来る敵を討つ。

「いんやー、危なかったなぁ綾はん」
「恩に切ります、涼影殿」
「佳孝殿も向こうで戦ってまっせ。将来は成実様みたいになるんやないの?」
「さぁ、計りかねますが!」

ズバッ、と二人が同時に敵を貫く。

「強くなることは、確実ですよね」

綾は、言葉の続きを紡いだ。


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定行は一人、城の中で黙々と作を考えていた。恐らく、勝つための策はこの状況下では作れない。ならばせめて、こちらが潰れる前に相手が退く程度の策を。頭の中で戦場を組み立て、様々な場合を考える。

「……」

筆を紙に走らせた、その時。

「……!」

何かを、感じた。

「……政哉様……?」