複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【末広がり参照八千】 ( No.595 )
日時: 2015/01/06 23:33
名前: ナル姫 (ID: 9kDns1lV)

伊達家は段々と体制が再び整っていた。成実が生きているということは味方の軍全体の士気を盛り上げ、敵の士気を下げた。心理とは本当に、戦に大きく関わると改めて皆が実感していた。

「本当、別人みたいですね」
「そうかな?」
「えぇ、政哉様の一つの特徴でしたから」
「でも、一気に大人っぽくなりましたよ!」
「……はい」

政哉が長い髪を切ったことで、一目見ただけでは少し分かりづらくなったが、家臣はその姿を褒めていた。勿論、素直に褒められない−−小十郎達は、その姿が政道に似ているため、あまり素直に褒められないのだが、政宗は特に気にしていないようだった。

「まぁ、梵天丸も嫌いたくて嫌ってるわけじゃねぇんだよ、政道を。寧ろ犠牲者なんだって、それくらい思ってんじゃねぇかな」
「犠牲者?」
「……政道は、保春院様に気に入られて、束縛されてる。母親と対立するなら、梵天丸は政道とも対立しなきゃならない」
「……政道様が、保春院様から独立、とかは……」
「そんなことしたら、あの人死ぬんじゃねぇの?長男はとにかくって言ったら梵天丸が気の毒だけどさ、三男には真っ向から否定されて、その上溺愛してる次男にまで抵抗されて一人残されれば、あの人の精神はガッタガタに崩れて自刃だろ」

もや、と、黒く、何か変な感情が、政哉の中で渦巻いた。

「……どうかしたか、蒼?」
「……あの」

言いづらそうに、だが確実な意思を持って、政哉は口から出した。

「……そうなってしまえば良いと……思うのは…………僕だけでしょうか……」

本当は、そんなことを思っていいはずがない。いくら養子に出されたとは言え、いくら伊達を潰すために使われかけたとは言え、生みの母である。自分に生命を与えた人である。感謝の気持ちを持たねばいけないとはわかっているのだが、どうしても政哉にそれはできなかった。

「……俺は、あの人の子供じゃねぇから何とも言えねぇし、母上とは喧嘩ばかりだけど、それが楽しいからなぁ……死んでほしいとか全然思ったことないから、それがどういう感情か感覚が掴めねぇ。でも、そうなれば良いとは俺も思ってる」

あまりにもあっさりと、それは告げられた。でも、と言葉は続く。

「それ、梵天丸と定行の前では言うなよ」
「え……定行の前でも?」
「あいつはあいつで、思うことがあるし……梵天丸は夢見がちだから、まだ期待してると思うから」


___



戦場では、伊達が善戦するようになっていた。

「定行の策が効いてきたようですね」
「あぁ、流石定行だ。敵に回られたら恐ろしくて仕方ない」

下手したら敵に回すことになっていた、そう考えると本当に恐ろしい。それを回避できたのは−−そこまで考えて首を振った。今はそんなことを考えていても仕方ない。

「小十郎、金と銀に戦況連絡を入れさせろ」
「御意。早馬を!」
「佳孝はおるか」
「っ、はい!ただいま!」
「浜継に五十騎率いさせる。ついていけ」
「はっ!」


___



「あ、皆これ以上このお兄さん達に近付いちゃ駄目だよ!怖いから!」
「はっ、呆気ねぇなぁおい……もう死んだのかよ?」
「……また折明殿が下衆になった……?」
「そうだね、あっちも怖いことになってるよ、成実様を侮辱した雑兵に怒ったみたいだね」
「さて……我が眼前で主を侮辱したその罪、どう償うつもりかね?」
「……あの二人に任せておいて大丈夫なような気がしてきましたね」
「偶然だね、俺も」

林を背にした二人は、暴走した同僚を止めるつもりもなく、あくまで楽観的に次々と殺されていく雑兵を眺め、心の中合掌していた。

「…戦、早く終わると良いなぁ」

そんなことを呟いて。