複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【五章】 ( No.599 )
日時: 2015/02/01 12:05
名前: ナル姫 (ID: 7MCr7M6.)

定行の策は大成功だった。
成実が死んだという噂はあっという間に広がり、軍の半分を引かせると、ここぞとばかりに敵は伊達を攻めたが、引かせた半分の軍はそのうちに連合軍の中でも最大の敵、佐竹の居城を攻めた。
両軍負った傷は大きく、相手軍もこの策により伊達を攻めるのは中止し、戦は引き分けに終わったが、四倍以上の敵を撃退した伊達軍は歓喜に包まれたのだった。
つまり、政哉含め初陣の人々の初めての戦は、雰囲気としては勝ち戦だった。

「ご無事で何よりです、蒼丸様」
「うん、ごめんね紅、心配かけて」
「いえ、光様や和様も元気をお取り戻しになられたようで、何よりでございます。ふふ、蒼丸様も凛々しくなられまして」

くしゃりと政哉も笑う。

「米沢へはいつお帰りになられるのでしょうか」
「うーん、まだ分からない。けれど、政宗様も帰る予定は立ててる筈だから、すぐに帰ることにはなると思うよ」
「それは何よりでございます。私達は先に帰ることになってしまいますが…」
「片倉様が一緒でしょ?なら大丈夫だよ、きっとさ」

優しく微笑んだ政哉に、紅も笑い返す。その時、政哉を呼ぶ声が聞こえた。

「行かなきゃ、じゃぁ、米沢で会おうね紅!」
「はい」

走っていく政哉の背に、紅はしっかりお辞儀をした。
その一連のやり取りを、秋善と尚継、隆昌に定行が陰から覗いていた。

「あぁ…」
「落ち着いて定行さん。感慨深いのは分かるけど落ち着いて」
「これですよ……!これですよ隆昌殿!これが夫婦です!」
「俺にそんなこと言ってどうするのですか秋善殿ぉ……」


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「なー、俺噂で死んだことになってるんだけどよ」
「それが策じゃ仕方あるまい」
「ふふ、申し訳ございません成実様。お義母様がその策に関して許可を出してしまわれまして」
「母上の野郎覚えてろよ」
「光ちゃんは悪くございませんし、和様が許可を出さなければ伊達は負けていましたことよ、成実様」
「正論は止めてくれ愛ちゃん」


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「はー、やっと戦終わったー」
「うるさい犬邪魔」
「何だよ急に!」
「事実でしょ」
「……えっと、落ち着いてください……?」
「何で疑問形龍久殿」
「ふふふ、二人はそうしているとお似合いの夫婦のようですね」
「ちょっ、み、満信殿ッ!?」
「二人揃って顔を赤くして、息ぴったりではございませぬか。ふふ」
「……」
「てゆうか折明殿が無言!」


___



「いやー、長い戦だったわぁ」
「そうですね…あの時は有難うございました」
「当然のことやねん。気にせんでええよ…家督は、継ぐん?」
「…ええ、しかし、先の話です」
「……その……何や、ええやないの?もっとこう…違う道、選んでも」
「え?」
「たとえば…む、婿養子、取る、とか…」
「……涼影殿、顔が赤いですよ?」
「っ……何でもあらへん!ごめん!忘れて!」
「?」


___



「幸さんもご苦労様でした。初めての戦で疲れたでしょう」
「ええ、はい…けれど、充実もしていました。ありがとうございました、納さん、恋さん」
「礼には及びません。そうだ、恋、米沢に帰ったら金平糖でも買いに行きましょうか?」
「えっ!?」
「ふふ、恋さん嬉しそうですね」


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「あー、疲れた。戦ってこんなに疲れるんだ」
「いや、今回は明らかに異常ですよ…長いし」
「……だが、負けなくて本当に良かった」
「…その、二人とも大丈夫か?父親が、死んだんだろう?」
「……ま、気にしない気にしない!親って言っても、俺達を捨てたわけだし。そんなことより政哉様に会いに行きましょー!」
「……というか、隆昌殿はどこへ……秋善殿がどこかへ連れていきましたが……」


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「……ったく…勝ったわけではないのに、騒がしいもんじゃな」
「ふふ、しかし政宗様、今宵ばかりは家臣達を誉めてもよろしいのではなくて?」
「……あぁ」

愛の声に政宗が微笑を浮かべる。

「小十郎」
「は」

背後にいる家臣に振り向き、政宗は言った。

「米沢へ帰る支度を」