複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【イラストうp!】 ( No.65 )
日時: 2013/07/30 14:36
名前: ナル姫 (ID: 6em18rVH)
参照: http://p.tl/uDkV

小鳥の鳴き声が空高くから聞こえる。太陽もさんさんと輝いている日だ。

「蒼丸様!木登りなど危のうございます!お降りください!」
「…定行さぁ、僕を見縊り過ぎてないか?いくら僕が運動苦手だからって、木登りくらいできるよ」
「いえそうではなく季節的に問題が…」
「季節?うわッ!!」
「わッ…」

ズリッと音がしたかと思えば、蒼丸の体が木から落ち、雪に受け止められた。だから言いましたのに、と溜息をつく定行を横目に、蒼丸は自分が滑った場所を見詰める。そして、あ、と呟いた。

「雪解けか!」

もうすぐ春である。


___



「え?晴千代に教育係を?」
「あぁ」

その頃、哉人は政宗に呼び出されていた。内容は、蒼丸の弟の晴千代の教育係についてだ。

「儂としてはなんとしても定行は避けたい」
「では…誰を?」

身を乗り出した哉人に、政宗はいつもの不敵な笑みを見せた。

「男のみが教育をするとは限らぬぞ」
「では…」
「喜多だ」
「何と!喜多様を…!」

喜多は、政宗の乳母で、小十郎の異父姉だ。小十郎と共に政宗を教育していた。

「良いではないか。喜多がいたからこそ今の儂もおるのだからな」

彼の胸のうちは、晴千代を立派な武将にしようだなんて綺麗なことではない。物事が巧く進むように考えたことである。その内容はともかくとして、その事も、哉人には分かっていた。そして、彼は答えた。

「…えぇ、喜んで」


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「そうですか…遂に政宗様が…」

哉人の話を聞いた定行は深く溜息をついた。私でも十分、政宗様に忠誠を誓っているつもりなのになぁ…。

「足りんのだろう」
「哉人様…」
「あの方が心から信頼している人の一人だ、喜多様は」

そう言って、哉人は立ち上がった。

「蒼丸には…知らせても関係ないだろう」
「…そうでしょうか」

異論を唱えた定行を、哉人は見詰めた。定行は目を伏せて、続けた。

「何故私が教育しないのか…それくらいは疑問に思うのでは…」

この城に教育が必要なのは今は蒼丸しかいない。故に定行しか教育する為の人間がいないのだ。定行が晴千代に教育を施す頃には、蒼丸は定行の『教育』は必要ないのだ。他の所—況してや主の乳母をつれてくる必要はない。そのくらい蒼丸には分かる。定行は、親の哉人よりずっと蒼丸の成長を知っていた。

「そう…か?」
「えぇ」

臆せずに定行は言う。そして、改めて政宗の目的を考えてみる。…全く、用意周到な御方だ。

「…定行、お前が考える、政宗様の思惑を語ってみよ」
「は、恐れながら…」

哉人は再び座った。定行は哉人の耳に口を近づけ、小声で彼の考えを打ち明けた。聞き終わったあと、哉人は苦笑して頷いた。そして、言った。

「次の戦…儂、死ぬな」