複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【イラストうp!】 ( No.66 )
日時: 2013/07/30 15:04
名前: ナル姫 (ID: 6em18rVH)
参照: http://p.tl/NaQ3

雪解けも終わりに近づいた卯月の初めの頃、哉人の次男、晴千代が四歳の誕生日を迎えた。それと同時に、金田城に一人の女性がやって来た。

「当主、藤次郎政宗の乳母、喜多でございます」
「よくお越しくださいました喜多様!我子、晴千代を宜しく御頼み申し上げまする」

政宗の乳母、喜多—…彼女は今日から金田城にて晴千代の教育に当たる。
晴千代の部屋へ向かう時、彼女を案内したのは同じ教育係の定行だった。

「しかし、蒼丸様も立派になっていらっしゃる御様子で」
「御陰様で」

ニコッと笑う定行。その顔に笑顔で喜多は返したが、急に真面目な顔になった。

「それと同時に不安でもありますわ」
「…」
「何時気付くか…いえ、もう気付いているかもしれない」

そう言って、喜多は空を見た。今日もよく晴れている。

(素敵な名前ね…蒼、か)

そんな事を思っていると、何時の間に着いていたのかもう部屋の前にいた。定行が襖を軽く叩く。

「晴千代様、定行です。喜多様をつれて参りました」
「うむ、話は聞いているぞ。入れ」

子供らしい高い、まだ少し呂律の回らない、だが凛とした声だった。
音を立てず襖を開ければ、その奥にはまだ四つの幼子。喜多は自分が育てた幼い頃の主を思い出す。

「本日より、宜しくお願い致しますね、晴千代様」
「うむ、こちらも宜しく頼むぞ!」


___



「喜多様ってどんな人なんだ?」

剣術の指南中、蒼丸が唐突に口にした。定行は目を丸くして、何故訊くのですかと首を傾げた。

「だって態々米沢から呼ぶって事、普通はないだろ?」

あぁ、やはり疑問に思ったか。心の中で深い溜息をついた定行。何とかしてうまい理由を作らなければ…とは思うものの、なかなか思い付かないものである。

「…さぁ、定行は存じ上げません」
「えー!?」

不満そうに荒らげたその声は、定行の嘘を見破っているような気さえする。そして案の定。

「定行ってさぁ…何か何時もそうやって色々誤魔化してないか?」
「そうでしょうか?」

表面上は平常心を装っているが、かなり彼は焦っていた。
聡明なお方だ。嬉しくもあるが、その分危なくもあるその頭は、天賦の才とも言うべきで、小さい頃の『あの人達』にもよく似ている。
それでも、知らない方がいいと言うなら、従おうと少年は言う。諦めたその呟きに、定行がホッとしたのは言うまでもなかった。