複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【イラストうp!】 ( No.69 )
日時: 2013/07/30 15:06
名前: ナル姫 (ID: 6em18rVH)
参照: http://p.tl/rCql

五月になった。

「のう政宗」
「はい?」
「金田の嫡男と会ってみたいのだが」
「…はぁ…」

政宗は今、彼の教育に携わった虎哉宗乙と云う名の僧と話していた。
何時の間にか、彼の耳に蒼丸が聡明だと云う噂が入っていたらしい。

「構いませんが…何故?」
「なぁに、理由などない。ただ一目見たいだけじゃよ」

政宗は少し間を置いて、分かりましたと答える。そして傍らに座る彼の右目に、呼べと命じた。
小十郎が出した使者が金田城に向かっている頃、政宗と虎哉は少し思出話をしていた。

「懐かしいのう。覚えているか?お主が初めて不動明王像を目にした時の話を。五つくらいだったが」
「えぇ、まぁ…」


『慈悲深い仏が、何故かように恐ろしい顔をしておるのだ』
『これは悪を懲らしめる為の顔で、内はとても慈悲深いのだよ、若』
『成程…戦国の大名もそうあるべきだな』

『梵天丸も、このようにありたい』


___



「政宗様から御呼び出し?」

小十郎が金田城まで出した使者は、哉人を通して蒼丸にその事を伝えた。蒼丸は怪訝そうな顔をしたが、分かりましたと了解する。

「定行も来るだろ?」
「無論」

こうして三人は寺へと向かった。


___



暫くしてその寺に着いた。中に遠慮がちに入ると、其処には政宗と小十郎、そして呼び出した当の本人である虎哉がいた。

「おぉ、貴方が蒼丸殿ですな」
「えぇ…」
「いやはや、御会いできて光栄でございますな」

優しく微笑む虎哉に、蒼丸は苦笑いで返した。虎哉は政宗の方を向き、茶を入れてくれぬかと言う。政宗は顔を顰めて言った。

「俺がですか」
「良いじゃろう?」

茶を点てるの、得意だろうと頼むような虎哉の顔を見て諦めたか、小十郎に目で合図した。小十郎は軽くお辞儀をして、道具のある方へ行った。
暫くして小十郎が茶を点てる為の道具一式を持って戻ってきた。政宗は不満そうな顔をしながらも腕を捲って、茶を点て始める。
蒼丸は何だか可笑しかった。何時も偉そうにする政宗が、一人の僧に言われるが儘、しかも敬語だ。それに、こんな文化的な主の一面を見るのも、自分の事を俺って呼ぶのも、全て蒼丸には新鮮だった。
少しして茶が入り、小十郎が二人の前にそれを出した。肩を小さく回しながら、久々にやると疲れる、と政宗が彼の右目に呟いたのは、きっと蒼丸や虎哉は聞いていない。

茶を飲み終わり、虎哉は息をつく。そして言った。

「見て頂きたい物があるのです」
「はぁ」

戸惑いながら答える蒼丸。虎哉は彼を寺の奥へ招いた。定行や政宗、小十郎も勿論呼んで。
その部屋にあった物とは。

「これは…見事な不動明王像ですな」

感慨深い声を定行が漏らす。蒼丸は初めて目にするその像に釘付けになった。

「恐ろしい顔をしていますね」
「そうでしょう?」
「何故ですか?」

蒼丸は真剣な眼差しを虎哉に向ける。

「これは悪を懲らしめる為の顔で、内はとても慈悲深いのですよ」
「成程…」

蒼丸はじっと像を見つめた。そして虎哉に振り返り、言う。

「戦国の大名もそうあるべきですね」

政宗の、青味掛かる黒い瞳が殺気立つように揺れた。

「蒼丸も、このようにありたい」

蒼丸は晴れ晴れとした顔で呟いた。
政宗は何かに耐えるように、拳を強く握りしめた。


*後書き?
>>68であと【三話くらいでその正体が明らかに】とは書いたものの、本当にそれで明らかになるのかかなり不安です…