複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【イラストうp!】 ( No.70 )
日時: 2013/07/31 14:23
名前: ナル姫 (ID: 6em18rVH)
参照: http://p.tl/HKpB

暑くなってきた。葉月。
今現在竜の右目—…片倉小十郎の目に写るのは最早作り笑いするのも億劫であろう、この間十九になった主と、それを目の前に、ほら見ろ、とでも言いたげな主の従兄で。そんな二人の間に立つ厚い壁を無くすのは彼には到底無理な話のようだ。

「…政宗様、如何致します?」

答えないとは分かっているが、せめてこの重苦しい空気をなんとかしようとして出してみる言の葉も虚しく部屋の中で消滅する。だがその直後口を出したのがいた。

「信じるっつったのは梵天丸だからな」

口を尖らせて低く言い放った成実を見て、小十郎はまた冷や汗をかく。それ以上言うな。只でさえ機嫌の悪い主に。

そもそも何故こんな状態になったのか。

大内から書状が届いたのだ。
内容は早い話、大内家は伊達に付く気など毛頭ないぞ、と。戦をしたければ来れば良い。但し、此方には蘆名がいるぞ、と。そんないきなり反旗を翻した様な内容で、その他にも色々先代の事まで侮辱した文が。それが主の堪忍袋を揺さぶったのは紛れもない事実で、それでこんな状況である。

「戦しよう何て言ったら家老共が黙っちゃいねぇぞ」
「これ成実!」

家老共とは何だ、と諫める声にも耳を貸さず、ただ政宗の返事を待つ。

「…貴様は儂がこうして苛ついているのを戦の所為だと思っておるのか」
「は?」

違うの?と間抜けな声を出せば、政宗が書状を投げ捨てる。そして続けた。

「此処は伊達家ぞ!この古く由緒ある名門の代々を貶すとは何事じゃ!」

珍しく声を荒らげた政宗を見て成実は苦笑いしかできなくなる。そゆこと、と小さく頷いた。
家柄より実力主義の戦国時代だが、流石伊達家は藤原摂関家の末裔とだけあり、その誇りは中々捨てられないのが政宗の現状だ。それは主の良い所なのか弱点なのか。

「大内を討つ。小十郎、軍議の召集を掛けろ」
「御意」


___



大内を討つ為の軍議召集は一番に金田家に届けられた。

「…遂に来たか」

薄く笑いながら呟く哉人を見詰めながら、定行はくれぐれもお気をつけてと囁く様に言った。

「無駄じゃ」
「哉人様ッ!無駄など…」
「本当じゃろ?」
「ッ…」

奥歯を食い縛って、眉間に皺を寄せた定行に、哉人は明るく声を掛ける。なぁに、儂が居ずとも確りやってくれるじゃろう?

「…御意に」
「よう言った。お前は城で番を頼むぞ」
「はッ」

小さく微笑むその頬に伝った一筋の光はまるで今までの事全てを懐かしんでいる様にも見えて、何より悲しさを伝えた。
でも、怖くはないのだろう。伊達家の事を第一に考えて—…。

二日後。

「…では、行って参る」
「はい。…哉人様」
「ん?」
「散るならば、華やかに」

定行は哉人と二人きりの時、そう言った。

「何じゃ、急に」
「蒼丸様が七夕の際、『父上の様になれますように』と梶の葉に書いていらっしゃいますれば」

少し笑って言った定行。聞いた哉人は、クスッと肩を竦める。

「あぁ、分かった」

外に出て、先頭の馬に軽々しく乗った哉人は、既に用意されていた兵達の士気を上げる。
こうして金田の兵達と哉人は米沢に向かった。

父を見送った後蒼丸は、珍しく晴千代と遊んでいた。肩車して、それにはしゃぐ晴千代と、重そうにしながらも無邪気に笑う蒼丸を見て

定行が少し涙する。