複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【イラストうp!】 ( No.76 )
日時: 2013/08/04 13:31
名前: ナル姫 (ID: 6em18rVH)
参照: http://p.tl/rX1N

輝宗の答えは、「好きなようにしなさい」と、無責任にも近い言葉で、家臣は深く溜息を漏らした。良く出来た息子を信じきるのは構わないのだが、少し主を抑えて欲しいと思うも、息子大好きの輝宗には通じない。

そしてその三日後、大内と伊達の戦が始まった。
蘆名が大内を支援していたが、なんと戦の前に当主、盛氏が謀殺され、蘆名は混乱状況に陥っていた。だがその代わりに佐竹が援軍を送り、有利かと思われた戦は一転、伊達の敗色が濃厚となる。

「梵天丸、これで終わらねぇぞ。まだ送る筈だ」
「ッ…分かっておる!」
「…」

家老の反対を押し切って仕掛けた戦だ。それなのに負けるわけにはいかない。そんな重荷が政宗にのし掛かり、彼は焦燥に身を駆られていた。

(負けてはならんと言うに…ッ!!)

強く左目を瞑る。八月の炎天下、頭が巧く働かないのは仕方無い。
そして、新たに入ってきた凶報。佐竹がまた援軍を送ったそうだ。綺麗に束ねられた後ろ髪を荒々しく書いた瞬間、矢が成実の真横を貫いた。

「あ…危ねぇ…」
「…何じゃこれは」

それは矢文(ヤブミ:手紙をくくりつけた矢の事)だった。成実が文を広げて、溜息をつく。

「何と書いてある?」
「自分で読めば?」

ポイッと政宗の方に投げられた紙を受け取った。読んだ瞬間政宗の顔が険しくなる。やっぱりなとでも言いたげな成実は、政宗を見てるだけ。内容は大内が伊達を裏切った時の手紙と殆ど同じで、早い話挑発だ。勢い良く立ち上がり言った。

「おのれ大内の狸めが…!許さぬ!」

珍しく感情丸出しな政宗だが、次の瞬間。

「お…おい梵天丸!?」

目が濁り、フラッと成実の腕の中に倒れた。気持ち悪い。熱に酔ったのかもしれない…そんな事をボンヤリと考える。

「…そんな身体じゃ指揮もろくに出来ねぇだろ?それに…これ以上の犠牲は無意味だ。退却しようぜ」

諭すような成実の声を聞きながら、政宗は考える。敗けは認めたくない、意地でも。軈て、小さな声で言った。

「…命じろ」
「あ?」
「『引き上げ』を命じろ…」

引き上げは、軍略上の必要から、一旦兵を収めて帰る事を指す。敗けを認め、退却するなんて事はしなかった。

「…あと…哉人を呼べ…其処におろう」

成実は頭上に疑問符を浮かべながらも頷き、近くに控えていた哉人を呼んだ。

「何用で…」
「…後継者を、選べ」
「え?」
「あやつか、晴千代…選べ」
「そ、そんなもの、蒼丸に決まって…」
「儂に遠慮はするな…選べ」

哉人は奥歯を噛み締める。その時、金田の家臣が哉人を呼びに来た。

「哉人様!お早く!」
「あ、あぁ…」
「待て」

陣から出ようとした哉人の足が止まる。

「まだ答えを聞いとらんぞ…」

哉人は固唾を飲んだ。
軈て、背を向けたまま言う。

「…家督は…晴千代に…!」

一言だけ言い、陣から出る。政宗はそれを見届けると、軈て気を失った。


___



哉人は陣の外、自身の軍の先頭に立ち、叫んだ。

「誉れある仕事なり!若当主を守り抜け!政宗様には指一本触れさせるなァッ!!!」
「「おおおおおおおおお!!!」」

哉人は自ら槍を振るい、敵陣に突っ込んでいく。



そして、果てた。