複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【イラストうp!】 ( No.78 )
日時: 2013/08/04 14:39
名前: ナル姫 (ID: 6em18rVH)
参照: http://p.tl/LFan

定行の顔から血が引いた。何故。どうして。あんなに、哉人様も、私だって、必死になって蒼丸様に隠し続けていたのに。
定行は、何も悪くない。伊達の当主と、その従兄が話していれば、中々部屋には入れないのが当たり前だ。ただ、時間が悪かっただけで。

『一応お前の弟なんだから』

蒼丸は、目を見開いて、動けずにいた。
弟?誰が?誰の?
彼の頭の中で、政宗と成実の会話が繰り返された。それの一つ一つを考えれば、『弟』とは明らかに自分の事。
震える手、足、体が全身。体制を崩した蒼丸は、そのまま後ろに尻餅をついた。どん、と鈍い音がして、その音は勿論目の前の部屋にも響いて。

「?何だ?」

襖が開く。開けたのは成実。そして彼は、目を見開いた。

「あ…お…」

蒼丸の瞳は、彼が怯えて、混乱している事をそっくり伝えていた。どうしよう。何か言わなきゃ。言い訳を考えなきゃ。違うって、態とじゃないって伝えなきゃ。

「…ッ…ぼ、僕…その…!」

成実が、蒼丸の肩を掴んだ。力が強かった。真剣な目。何時もの、蒼丸が知っている成実ではなくて。武士としてのではなく、城主としての、でもなく、男としての、でもなく。
政宗の、友としての。

「何時から其処に居た?」
「ッ…!!ず、っと…」
「話、全部聞いてたんだな?」

一言で言えば、威圧的。普段の政宗にも似た態度で、思い出す。そうだ。成実様は政宗様の血縁で、ずっと近くに居た人なんだと。

僕は、その政宗様の弟?
彼の頭が更に混乱する。何故?なら何故僕は金田家に居るの?僕の父上は?母上は?誰がこの事を知るの?僕しか、知らない人は居ないの?
彼の両目から、少しずつ涙が零れ出す。

「蒼…」
「ッ!!もう、何にも分かんないッ…!!!」

突如蒼丸は立ち上がり、城の奥へ逃げて行った。

「蒼丸様ッ!!」

定行がそれを追う。成実も行こうとした…だが。

「行って何になる」
「ッ…梵天丸!お前…」
「…話したのは貴様だ」

成実は拳を握り締めた。殴ってやりたかった。でも、そんな事が出来る筈もない。腐っても主。それに、今はかなり弱っているのに。

「元はと言えばッ…!!テメェがあんな事をするからだろッ!!」
「儂に非があると申すか、成実」

青味掛かった黒が、今日はより一層深く、熱のせいで潤んでいた。

「…あの日から、俺は何時もお前の味方だって言った…でもアレは出来る限りの話だ!」
「…」
「今日は蒼に味方する」

小さく言い残し、部屋を去る成実。その成実の背を、政宗は驚いて、どこか寂しそうに見ていた。

(何故儂には味方が居ない…ッ!?)

彼だって、自身の弟と同じ。

何も分からなかった。


___



「おい!蒼!蒼ー!!ったく何処にいんだよ」

呟いた瞬間、厠から啜り泣く声がした。溜息をつきながら覗く。そこには定行の姿もあった。

「…こんなとこに居たのか。出ろよ。ほら」

差し出された手を蒼丸は少し渋々ながら受け取った。その後成実は、二人を自室に連れて行く。

「悪かったな、梵天丸が…いや、言ったのは俺なんだけど…」

頭をポリポリ掻いて、吃りつつも説明を続ける。

「…成実様」
「?ん?」
「僕に、初めから全部話してください。そうじゃ、ないと、僕…もう、きっと誰も信じることが出来ない…!」
「…そっか…そうだよなぁ…」

隣に座る定行は、申し訳無い、と言うような態度。それは、成実に向かって言っているのか、今まで騙して来た蒼丸に向かって言っているのか。
…まぁ、どちらでも良い。

取り敢えず。

「…分かった」



「梵天丸…政宗の事について、俺が全部教える」



→次回から過去編。19年程遡ります。