複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【イラストうp!】 ( No.79 )
日時: 2013/08/04 14:41
名前: ナル姫 (ID: 6em18rVH)
参照: http://p.tl/ZvmI

全ての始まりは十九年前に遡る。
初めの頃に書いた文をお覚えだろうか?

『偏愛』が、全ての原因である、と。

その話をする為には、独眼の竜が生まれた時の話から始めなければいけない。故、暫し付き合って頂こう—…。


十九年前の、八月三日。米沢の城で、とある男の子が産声をあげた。この子供が、後に伊達家当主となる伊達政宗である。
名は、彼の母、義姫が懐妊した際に見た夢に因み、『梵天丸』。梵天とは、修験道(シュゲンドウ:日本仏教の一派)における幣束(ヘイソク:裂いた麻や畳んで切った紙を、細長い木に挟んで垂らした物)の事を言う。義姫は老人から、夢の中でそれを授かったそうだ。
梵天丸は天賦の才に恵まれた子だった。勉学、剣術、何をとっても申し分無い。更に顔は、美しい母に似ていて、彼自信とても美しかった。髪は、父に似た。
彼が二歳の頃、弟の竺丸(後の小次郎)が生まれた。竺丸に至っては何から何まで母にそっくりだったと言って良い。また彼も、才能のある子だった。
両親は、二人を愛した。家督は梵天丸が継ぐ。だから貴方は兄を支えなさいと、言われてきた竺丸。頑張って、もっと強くなって、天下を取るんだと言われてきた梵天丸。二人の子供は、それをよく理解していた。
伊達家は将来、安泰に違いなかった…。

だが、梵天丸が五歳の時、それは起こった。疱瘡を患ったのだ。皆が死を覚悟した中、彼は生きた。だがその命は…

右目と引き換えの命だった。

更に顔面は痘痕だらけ。今でこそ痘痕は薄くなり、美しい顔だが、当時はその顔は何処へやら、醜い容貌となっていた。おまけに失った右目の眼球は飛び出していたのだ。

父と母に心配を掛けてはならないという責任感が、彼を無理矢理明るく振る舞わせていた。それは政宗が作り笑いが上手いことに、少なからず関係している。
自分の右側は全くの闇、距離感すら掴めず、不便な日々が続く。だが疱瘡が与えた影響はそれだけではなかった。

「母上!」
「あ…どうしたのじゃ?」
「母上に、柿を採って参りました!」
「…ッ母は今腹が一杯じゃ…後で良い。竺丸、参ろうか」
「母、上……」

それから、母が柿を受け取ってくれる事はなかった…。
向けられた背を見て、思った。
嗚呼、もう、母は己を愛してはくれぬのだ、と。

義姫は、梵天丸が右目を失った事に、落胆した。それはいつしか憎しみに変わった。何故、醜い片輪者が家督を継ぐのだ。自分に似て、美しいままの弟が継ぐのが妥当ではないか。
そんな母の心境は、梵天丸にも分かっていた。愛を失った竜の心は日に日に荒み、暗くなっていった。
更に、二月頃、梵天丸にとって不幸な事が起きた。
己の地位を危うくする、存在が現れた。


「ねぇ、新しくお生まれになった子、何てお名前になったの?」
「えっと確か…色の名前が入ってたけれど」
「色?梵天丸、竺丸と来て、色?」
「あぁそうだ、確か、生まれた日の空の色に因んで…」



「蒼丸」