複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【誰かコメントをお恵みください】 ( No.83 )
- 日時: 2013/08/04 14:53
- 名前: ナル姫 (ID: 6em18rVH)
- 参照: http://p.tl/CB65
事を知った輝宗は、直ぐ様梵天丸の部屋へ行った。襖を開けると、傷まみれの梵天丸と、手当てをしている侍女、時宗丸と家臣の一人がいた。
「梵天丸!!一体何をしたのじゃ!?何を考えておる!」
「…ッ」
梵天丸の目は、どこか輝宗を睨んでいるようで、しかし寂しそうな目だった。
「…だって、…が…」
「?」
「父、上が、後継者、竺丸、か、蒼丸っ…て…」
梵天丸の瞳から大粒の涙が零れ出した。嗚呼、こんなに泣いて……この子は、ずっと我慢していたのか?
「何故そんな事になる?儂はお前に継いで欲しいのじゃぞ?」
「ははう、えは、竺丸が良くて、父上、も、蒼丸と、ずっと、一緒…だか、ら…僕…」
もう、泣きすぎて何て言っているのかも聞き取れなくなった時、横に控えていた家臣が口を出した。
「…輝宗様に相手していただけない理由を、これが自分の体ではないからだ…と思ったそうです」
「?」
「これは自分ではないからこんなに醜く、父も母も相手をしてくれぬのだ、と…」
「馬鹿なことを!!」
輝宗は梵天丸の肩を掴んで、言った。
「これは!お前の体だ!お前の顔だ!」
「…!!」
「現実を認めよ!目を背けるな!それでこそ、伊達の棟梁の器よ!」
梵天丸は、輝宗の袖を掴んだ。そして、弱々しく声を出す。
「…父上は、僕を愛してくれていますか…?」
「当然じゃ…お前が大好きだよ」
輝宗の腕が、華奢な梵天丸の体を抱いた。その後、梵天丸の教育に携わったのが、虎哉和尚であった。
虎哉は元々美濃の僧であり、輝宗が凄く頼み込んだ上での了解だったため、これだけでも十分な愛情表現だったが、輝宗は足りなく感じた。
そこで、考えた。
「基信、頼みがある」
「は、何なりと」
輝宗と話しているのは遠藤基信。彼は輝宗の側近である。
「お前、哉人と親しかったな」
「えぇ」
「…彼処は去年嫡なんが死んでいたな」
「はい」
「そこでだが、蒼丸を金田の子にしたい」
「!?な、何を仰います輝宗様!!」
「これが、蒼丸や義、竺丸にとって辛いことだとは百も承知だ。だが儂は、これ以上梵天丸を傷付けたくはない」
基信にも、今回の騒動に、蒼丸が深く関わっていることは分かっていた。そして。
「…了解致しました。哉人に頼んでみましょう」
「任せたぞ、基信」
___
「それで僕は…金田家の養子に…」
成実は無言で頷いた。政宗に言った、『あんな事』とは、政宗の自殺行為を表していた。
「…お前は元々伊達の人間だ。だから家督を継いでも伊達に奉仕してくれる筈だ…でも、お前は哉人に憧れていた。当主に意見する哉人だ。そいつの姿を見ていたら、蒼だって意見するような人間になる。だから晴千代に早いうちから喜多をつけて、伊達に従うように教育させてるんだ。今回の戦は、晴千代に家督を継がせる為の戦いでもあった。主の乳母が教育してたら、哉人だって跡継ぎを晴千代にするしかない」
全てを理解した蒼丸の瞳から、また涙が零れ始めた。
「…定行は…全部知ってたんだな…」
「…はい……申し訳ございません…」
深々と頭を下げる彼に、蒼丸は頭を振る。
「良いんだ。僕が傷付かないようにって…思ってたなら」
軈て、成実が言った。
「頼みがあるんだ、蒼。梵天丸は見て分かる通り、少し狂ってる。小十郎も、俺も、輝宗様も、それは直せなかった。もうお前しかいないんだ!
梵天丸を、闇から救い出してくれ」