複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【誰かコメントをお恵みください】 ( No.85 )
- 日時: 2013/08/04 15:04
- 名前: ナル姫 (ID: 6em18rVH)
- 参照: http://p.tl/Ktgz
「…」
偉く不機嫌そうな政宗の前で成実がヘラヘラ笑っている。
「…取り敢えず二つほど疑問を口にしようか」
「おう、なんでも聞け!」
「何をしに来た?」
ギラ、と隻眼を光らせて、政宗は成実を睨んだ。成実は笑ったまま、頼みごと、という。頼みごと、というと、大方こいつが関係しているのだろうと、蒼丸を一瞥。大きく溜息を一つ、頭を乱暴に引っ掻けば、また顔をあげた。
「…こいつどうした?」
きっと誰でも気になるとこだ。蒼丸が成実の横で喉押さえてゲホゲホと言っていたら。
「声変わりで声がでねぇのに叫ぶから」
「…大方貴様が馬を早く走らせたのだろうが」
「流石。よく分かっていらっしゃる」
まだヘラヘラと笑う成実を見ていよいよ政宗の顔に青筋が見え始める。それを見た成実は、笑うのを止めて本題に入る。
「えっとさ、蒼を米沢で働か」
「断る」
「…俺まだ『働か』までしか言ってねぇけどね?」
「知らん」
本当に融通が効かないな、こいつは。溜息をつく成実。
「で、でもよ、考えてみろよ!蒼丸は金田に居ても一人だし…」
「儂がそうしたのだ。当然だろう」
「こ…この性悪…」
傍観していた蒼丸がここで口を出す。
「だ…だから無理って言ったじゃないですか…」
と言うより、元々駄目と分かっていて成実もやってみたのだ。だが、少しでも政宗と蒼丸を近づけるため、これが最善の方法だ。その時、成実と蒼丸の助け船が登場した。皆、特に政宗は予想外だったが。
「では私が小姓として頂いて良いでしょうか?」
「こ、小十郎!?」
いきなり後ろから音もなく現れ、貰いたいと言えば政宗はこの反応。青に近い黒い瞳を従者に向ければ、小十郎は笑みを崩さず、宜しいですか?と問う。
「か、片倉様…」
「小十郎…」
小十郎は細い目を二人に向けて、蒼丸の前に歩いていく。
「小十郎…貴様正気か?」
そんなことを従者に問うなんて、僕はどれだけ兄に嫌われているんだか。
「良いではないですか」
貴方様の実弟とあらば、聡明で気が利く小姓であると存じますが?そういう小十郎に、政宗も折れたのか。
「…勝手にしろ」
背を向けて自室に戻る政宗の後ろで、嬉しそうな声が聞こえた。
「ほらな!大丈夫だったろ!?」
「はい!あ、ありがとうございました!!片倉様!」
「いえ…私も丁度、小姓が欲しかったのです」
目を細めて笑う小十郎に、蒼丸は一生懸命お礼を言う。しかしおかしな光景だよな、と成実は呟いた。
「へ?」
「へ?って…お前、自分が梵天丸の弟だって忘れてんのか?」
苦笑混じりに言う成実に、蒼丸は頭を振った。忘れるわけがない。
「だってお前は兄の従者の小姓になるんだぞ?なんかおかしくねぇ?」
そういえばそうだ。……でも。
「きっと政宗様は、僕を弟と認めていません」
「…」
『貴様正気か?』
「蒼…」
「勿論そのままで終わらせる気はないです!…でも、認めてもらえるまでは、これで良いと思うんです」
力なく笑う蒼丸を撫でる成実。
(強くなったよなァ…)
ふぅ、と小十郎が息をつく。
「時に蒼丸殿」
「あ、はい」
「馬には乗れますか?」
「………」
「…乗れないのですね。分かりました」
「片倉様?」
「馬に乗る訓練をしましょう。小姓になるのはその後です」
「…!はい!!」