複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【誰かコメントをお恵みください】 ( No.86 )
- 日時: 2012/08/07 11:02
- 名前: ナル姫 (ID: tBS4CIHc)
蒼丸は馬を走らせるための野原へ連れてこられた。小十郎がつれてきた馬は、大きな目をした、茶色い馬だ。
「可愛いですね」
「名前をつけてあげてください」
「え?」
「これからその子は、貴方の馬ですから」
「えっと、じゃあ……『空』!」
蒼丸は、ふんわりとした笑顔を自分の名付けた馬に向けた。空と名付けられた馬は、蒼丸に顔を擦り付ける。擽ったいよ、空、と蒼丸は嬉しそうに言った。
「今日は何をするんですか?」
「馬と仲良くなるのが第一歩です。あと、鞍(クラ:馬・牛などの背に置いて、人や荷物をのせる道具)を取り付ける練習をしましょう」
「はい!」
蒼丸は元気に返事をした。確かに、主と顔はそっくりで、兄弟だなぁと思う。でも主に馬に乗るのを教えたときは、こんなに元気じゃなくて、淡々とこなしてしまった。そこを考えると、やはり哉人に育てられた子だと思う。
「…で、仲良くなるってどうすれば良いんですか?」
「餌を与えたり、洗ってあげたり…ゆっくりで良いですよ」
とは言ったものの、蒼丸と空は、もう十分仲が良さそうだ。嬉しそうに空を撫でる蒼丸を見て、フウ、と一息ついた。
「さて、では…」
小十郎は、自分の馬に乗せてきた荷物を下ろした。中から鞍を取り出す。次に、自分の馬から鞍を外した。蒼丸を呼んで、よく見てください、と言って、説明しながら鞍を着けて見せた。
「やってみてください」
「はい!」
不器用に、たまに考えて、でも教えられた通りに。
「ど、どうですか!?」
「お見事。良く出来ましたね」
蒼丸の顔が輝いた。良かった。うまくできた。
「兄弟ですねぇ…」
「ふぇ?」
「ああ、いえ…政宗様も不器用なものでしたから」
小十郎は、可笑しそうにクスクスと笑った。似ていないようで似ている兄弟。やはり血は争えないものだ。
「…政宗様はいつ訓練したのですか?」
「えっと…元服を済まされてすぐだったので、十一くらいですね」
「そんなに早く!?」
「輝宗様が出来れば早く、と言っていたので」
結婚したのも、今の貴方と同じくらいでしたよ、と付け足す小十郎に、蒼丸はシュン、と肩を落とす。やっぱり、違いすぎる。同じ母と父の間に生まれたのに、どうしてこんなに…。
「?如何なさいました?」
「あ、いえ…何でもないです…」
___
空の背中に蒼丸を乗せて、小十郎が空をゆっくり引いていた。いきなり早く走らせる訳にはいかない。緊張した顔つきで落ちないように気を付ける蒼丸の顔はやっぱり政宗に似ていて。なんだかんだ、主と重ねてしまう辺り、やはり私はあの不器用で繊細な主を気に入っているんだろう。考えて、自分に苦笑を漏らした。
「大分馴れてきましたね」
「はい」
明るい笑顔を向けた蒼丸。小十郎も心なしか嬉しそうだった。
「ではもう一度今のをやってから、もう少し早く走らせてみましょう」
「はい!」