複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【誰かコメントをお恵みください】 ( No.87 )
日時: 2012/08/09 18:29
名前: ナル姫 (ID: zi/NirI0)  

休憩中、小十郎がはたと顔をあげ、思い出したように言った。

「時に蒼丸殿。定行殿にここに来ることは言ったのですか?」

ピタリと空を撫でていた蒼丸の動きが止まる。次に聞こえたのは忘れてました…と言う声。くす、と笑って、では言いに行きましょうと、立ち上がった。蒼丸もそれに続く。

「…しかし、歩くと相当な距離がありますね」
「はい」
「だから馬でいきましょう」
「え?でも…」

まだ早く走れません、と言いかけた蒼丸の頭に手を置いて、ゆっくりで良いんです、と小十郎は笑う。

「次、私は馬に乗っているので補佐してあげられませんよ?自分で舵を切ってください」
「は、はい!!」
「よし、ではまず鞍を着けましょう」

小十郎の声に頷いて、蒼丸は空に鞍を着け始めた。さっきよりは大分早い。
その様子を木の陰から、政宗が見ていた。側に家臣の鬼庭綱元がいる。と言うより、政宗を追って今来たのだが。

「伊達の当主様は、政務をおサボりになって何を熱心に見ていらっしゃる?」
「放っておけ」

ちら、と綱元を見てから、口を尖らせる。

「…弟君の成長が見たいのですか?」
「…別に」
「全く、貴方様は本当に素直になってくださらない」
「何が言いたい綱元」
「さあ?何でしょうね」

にっこりと微笑んだ従者が憎たらしい。はあ、と溜息をついた政宗だが、まだその場所から離れようとはしなかった。


___



「わっわわわっ!?」
「しっかり手綱を持ちなされ」
「はっはい!!」

城下をゆっくり、馬でかけていく。いつも篭の狭い中にいたのに、馬の上だとこんなに気持ちいいのかと思う。景色が後ろに過ぎ去っていく。今は夏だから暑いけど、きっと秋や春はもっと気持ち良いだろう。

暫く歩かせているうちに、金田城についた。門番に門を開いてもらって中に入ると、ちょうど定行と遭遇。

「おや…」
「か、片倉様!?蒼丸様!!」
「あ…定行…」
「どこにいっておられたのですか!?城の者皆心配して…」
「ご、ごめん…」
「文句なら彼ではなく、成実に言ってください」

苦笑しながら馬から降りた小十郎は、ご苦労でした竹千代、と馬を撫でた。

「…して、何があったのです?」

定行の問いに、蒼丸は順をおって説明した。


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「…つまり成実様に誘拐された、と」
「うん」

はあ、とガックリと項垂れる定行。蒼丸は必死になって自分は苦ではないことを説明した。

「でっでも!お陰で片倉様の下で働けるし、馬だって貰ったんだよ!」
「そんな…では何か礼を差し上げなくては…」
「要りませんよ。馬の一頭くらいで…それにこれから働いていただきますから」
「しかし…」
「大丈夫ですよ。政宗様だって何も言いはしませんから」

くす、と笑う小十郎を見て、定行もやっと安心したようだ。

「…片倉様、どうぞ、蒼丸様を宜しく申し上げ奉りまする」

丸で、子を奉仕に出す親のように、定行の言い方は改まっていた。元々礼儀正しく、上下関係には厳しかったが、今日は本当に親のように。

「私は今、喜多様と晴千代様の補佐で忙しいので…蒼丸様のお顔を見に行くことは中々出来ませんが…」
「見に来なくて良いよ…」
「えぇ!?そんな…」

定行の反応に笑って、また少し談笑して。
蒼丸と小十郎は、薄暗い道を帰っていった。