複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【誰かコメントをお恵みください】 ( No.88 )
- 日時: 2012/08/11 11:19
- 名前: ナル姫 (ID: DLaQsb6.)
二人が帰った頃には、すっかり暗くなってしまっていた。帰った報告をするため政宗の部屋に入る。書物を読んでいたが、政宗は偉く不機嫌でいた。
「随分遅かったな」
「申し訳ございません」
頭を下げる小十郎に蒼丸も続いた。はあ、と政宗は溜息をつく。
「…まあ、良い。小十郎」
「は」
ピッと政宗は蒼丸を扇子で指す。
「こやつの部屋は貴様が用意しろ」
「御意に…では参りましょうか蒼丸殿」
「はい」
小十郎から先に部屋を出た。蒼丸もそのまま出れば良かったものを、彼には政宗に言いたいことがあった。勇気を振り絞る。
「あ、あの!」
「何用じゃ」
「ぼ、く…今日初めて、馬に乗る練習をしたんです!それで…まだ、巧く乗れないので、兄上にも、教えて貰いたくて…」
「兄などと呼ぶな!!」
蒼丸はハッと顔を上げた。そうだった。つい、兄と呼んでしまった。彼が、自分を弟と認めていないのは分かっていたのに。蒼丸の瞳は自分の不甲斐なさと、初めて見た、声を荒らげた政宗に対する恐怖で揺れていた。
「も…申し訳ございませんでした…」
ゆっくり深く頭を下げ、蒼丸は部屋から出た。政宗一人しかいない部屋に、襖を閉める音が嫌に大きく響いた。
___
「…無茶しましたねぇ…」
「…」
「…まあ、仕方の無いことですよ。私はあの方の従者なので必然的に政宗様を庇う形になりますが、分かってあげてください」
「…はい分かってます…分かって、るんです…」
途端、蒼丸はその場にしゃがんで泣き出した。
「…でも、あんな風に言われるのって…初めてで…どうすれば良い、か、分からなくて…怖くて…」
ポロポロと小さな涙が頬を伝う。小十郎もしゃがんで、蒼丸の頭を撫でた。
「…政宗様は、弱い者の立場を知っています」
「?」
「それが、あの御方の糧になっている。あの御方は随分強くなった。…蒼丸殿、いや…蒼丸」
「…」
「貴方は、哉人が大切に育ててくれた。人の汚さも、弱さも、貴方はきっとよくわからない」
優しく微笑む小十郎から、目を離すことができない。それに、彼の言う通りだった。
「それに対して、政宗様は幼い頃から色々知りすぎました。でもそれは、先にも言いましたが、あの人の糧になる」
言うと、小十郎は蒼丸の頭から手を離した。そして今度は、弱く拳を作って蒼丸の心臓を小突く。
「貴方にも糧がある。貴方はそれをもう知っている」
「僕の…糧?」
僕が、強くなるための。
『蒼丸』
姉上…。
『兄上』
晴千代…。
『蒼丸様』
定行…。
『蒼丸殿』
片倉様…。
『蒼!』
成実様…。
『蒼丸様』
家臣の皆…。
『蒼丸』
父上…。
「貴方は、沢山の優しさを知っている。それは、弱さを知る以上の糧にできる…貴方は強くなる」
きっと、いつか、
貴方の兄よりも。