複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【誰かコメントをお恵みください】 ( No.89 )
- 日時: 2012/08/13 08:55
- 名前: ナル姫 (ID: 0M.9FvYj)
亥の刻を半刻ほど過ぎたくらい(午後十一時位)に、蒼丸は寝付いた。それを見届けた小十郎が政宗の部屋に向かう。
「政宗様、小十郎にございます」
「入れ」
スッと襖が開き、小十郎が中へ入ってきた。何か用か、と政宗は真っ直ぐ小十郎を見る。
「…私の目は見るのですね」
「?」
「蒼丸の目は見てなかった…貴方とよく似た色彩の瞳を」
「…ふん、だから何だと申すか」
政宗が口を尖らせる。
「弟君を嫌っているのは知っております。…しかし、貴方は寧ろ恐れているように見えた」
「…」
小十郎の淡々とした声が政宗の頭の中で旋回する。ギュッと握られた手。顔は無表情のままだったが、その手は政宗が動揺している事を伝えていた。
「此度の戦も…然り」
「何が」
「哉人を亡き者にするため、等と貴方は言っていましたが、実際、貴方は哉人を失うことを恐れていた」
「そんな事…」
「そうでしょうか?優秀な家臣が一人居なくなるのに…ですか?…それに…哉人のような真っ直ぐな人柄だと、晴千代が家督を継げなくなるとも考えたのでは?いくら姉上に教育させても。まあ、そこはあなたの思惑通りに…」
「も、もう良いではないか!!」
責めるような口調に耐えられなくなったのか、突然政宗が声を荒らげた。小十郎は細い目を一層細くして、これは失礼、と言う。
「…次の戦、如何なさるのですか?」
政宗は溜息を一つ、目を閉じて静かに語り出す。
「近隣の大名共が儂を舐めておるなら…また、家臣に儂から離れる奴が出たなら…」
スッと、隻眼が見開かれた。青味係る、黒く深い瞳が姿を覗かせる。
「儂は儂のやり方に従おう」
後悔させる、と小さく呟いたのを、従者は果たして聞いていたのかいないのか。
___
翌日—…
「おはようございます片倉様」
「おはようございます、蒼丸」
朝餉が出来ていますよ、と言う小十郎に、蒼丸は笑顔で頷き、すぐ食べて参りますと応えた。
(…産みの親より、育ての親ですね)
素直な子供。哉人の子。
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「…で?何か用かよ?」
いつも俺が来たら帰れ帰れ言う癖に今日は自分から呼び出すのかお前、と明らかに不機嫌そうな成実を前に、煩い黙れ、度々来てはどうでもいい話をしてる癖に呼び出されるのは不満か、と此方も不機嫌な政宗。成長しない従兄弟同士である。
「呼び出したのは他でもない。戦の話じゃ」
「…大内か?」
「ああ…それ以外ない」
伊達家の当主としての誇りをズタズタにされた怒りは大きい。成実としては、若いのだから仕方のないことだし、気にしすぎだと思うのだが、そんな言い分が政宗に通じる筈がない。
「…で、俺は何をすれば良い?」
成実が聞いた瞬間、部屋の真横を稽古着に身を包んだ蒼丸が通った。開いた襖からその姿が見えたため、成実はよぉ、蒼!と彼を呼び止める。
「あ、成実様…政宗、様…」
「今から…稽古か?」
「はい、片倉様と…」
「そっか、頑張れよ」
はい、と笑顔で返事をする蒼丸に手を振る。蒼丸は道場へ向かった。成実がそれを見届けた後、言う。
「…お前、昨日蒼に何か言ったろ?」
「…フン」
「大正解か」
「黙れ」
「…でもよ、蒼はお前みたいに…」
演技が得意じゃないな、と呟く声に政宗は目を伏せた。