複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【誰かコメントをお恵みください】 ( No.90 )
- 日時: 2012/08/15 14:44
- 名前: ナル姫 (ID: .pdYDMor)
秋になると、伊達軍が本格的に大内を攻め始めた。今回の狙いは、居城の一つの小手森場だ。
「では、行って参りますね、蒼丸」
「お気を付けて、片倉様」
深々と頭を下げた蒼丸に、小十郎は小さく手を振った。
「小十郎、何をしておる。早う行くぞ」
「はい」
向こうの方で、政宗と小十郎の話す声が聞こえた。蒼丸には政宗の言葉が態と行っているようにしか思えなかった。出陣前にまで、彼奴に構うなと…。
(だッ…駄目だ駄目だ!!暗いことを考えちゃ…)
ブンブンと頭を振ったその時、蒼丸?と自分を呼ぶ、聞き慣れない声が聞こえた。振り向くと其処には、あまり見慣れない、とても美しい男の人がいた。
「…?」
「どうした?」
「あっ…政道様!!?」
彼の名は伊達政道。政宗の実弟で、蒼丸の実兄でもある。驚いたような蒼丸の姿を見て、彼は少し吹き出した。
「よもや…忘れていたわけではあるまいな?」
「いえ違いますッそのッ…」
あまり式典でも見ないから分かりませんでした、と言う言い訳に近い理由は口から出せなかった。
「フフ、嘘だ。からかって悪かったな。私の事は式典でもあまり見ないから分からなかっただろう?」
ズバリ言い当てられ、蒼丸は返す言葉がなくなる。代わりに恥ずかしそうに下を向いて、袴を少し握った。
「あ、の…政道様、戦は…」
「…蒼丸、私とお前は兄弟だ。喩え、兄上が私達を弟と認めなくとも、私はお前を認めよう。兄、と呼んで良いのだぞ」
蒼丸の目が輝いた。そして、満面の笑で有難うございます!!と元気に言う。その謙虚な行動に、政道も笑った。
「で…政道兄上、戦は…」
「あぁ…私は出れないんだ」
「何処かお身体の調子が悪いのですか?」
「いや…母上が引き留めるんだ」
「え…」
「怪我したら大変だとか、陣中で具合が悪くなったらどうするとか言ってな…尤も、弱い私が行っても足手纏いだろうがな」
「…」
一度、定行に聞いたことがある。政宗様と雅道様では、政宗様の方が体が弱いらしいと。真偽は定かではないが、何れにせよ…政宗様は母親に新お愛されていないのだ、と。
「兄上…どうか無事に帰ってきて下さると良いが…」
「…ッ大丈夫ですよ、政道兄上!政宗様は、そんな簡単にやられたりしません!僕等の尊敬する兄上ですから!」
「……!…あぁ、その通りだ、な…」
___
一方、小手森城前、伊達陣営。
「相手の籠城の準備は完璧だとよ」
「心配することもない。勿論首は狙うが…ただ奴らが恐怖に身を震わせれば良いのじゃ」
「…お前…まさかとは思うが…」
「そのまさかだが、どうかしたか?」
政宗は皮肉っぽい笑みを成実に向けた。成実がハァ、と溜息をつく。
「そんなの…奥州で初めてだぞ…近いものでも、源頼朝公のあれくらいだろ」
「奥州藤原氏と義経公を滅ぼしたやつか。あれ以上の事をしよう。それに初めてだからこそ意味があるのじゃ」
「…織田信長公か、お前は」
「それくらいやらんとな」
言いながら政宗は立ち上がり、陣の外へ出た。成実と小十郎が後ろにつく。
「今現在より、大内攻めを執行する!狙うは当主、定綱の首ぞ!」
全軍に、政宗が叫ぶ。
彼の隻眼が、細められる。
「掛かれッ!!」
前線が、敵とぶつかった。