複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【誰かコメントをお恵みください】 ( No.91 )
日時: 2012/08/17 08:35
名前: ナル姫 (ID: cZfgr/oz)  

数で劣る伊達勢はまたも敗北の危機に陥り掛けた。数週間に及ぶ必死の攻防の末、伊達は大内と勢に挟まれ、絶体絶命である。

「おいどうするんだよ!梵天丸!」
「焦ることはない…まだ策がある」

政宗が言った瞬間、家臣が陣に入ってきた。

「報告します!!あれが到着いたしました!!」
「来たか」

不敵に笑い、パチンと指を鳴らした。成実、馬の準備じゃ、と言う。

「う、馬って…お前の?」
「無論。貴様のも、な」
「…分かった」

そう言って成実は自分と政宗の馬に鞍を取り付けた。綱を引いて連れてくる。

「久し振りだな、お前が戦場に出るの」
「此処に居てばかりでは体が鈍る」

言いながら政宗は自らの馬の喉を撫でた。馬は政宗に顔を擦り付ける。

「随分長い間寂しい思いをさせたな…日向ヒュウガ

その時、また家臣が一人入ってきた。

「報告します!鉄炮隊が一斉発砲、大内、畠山勢は城に籠城しましたが兵力を著しく消耗、形勢逆転です!」

報告を聞いた成実が、策ってこれか、と苦笑を漏らした。政宗と成実は馬に乗る。

「行くぞ成実」
「おうよ」

城に逃げ帰った兵達も入り口付近に控えていた鉄炮隊により射撃され、入り口を塞ぐものがなくなった。そこから次々と伊達軍の兵士が入っていく。政宗や成実が入り口付近に来たとき、鉄炮隊が潜んでいた薮から一匹の馬が現れた。乗っていたのは、鉄炮隊を指揮していた小十郎だ。

「政宗様、陣でお待ちしていれば良いものを」
「たまには良かろう?小十郎、よくやった」
「有り難き御言葉…我が君」

政宗の隻眼が、獲物を狙う獣の目の様になる。そして叫んだ。

「城内のものは全て殺せ!犬も猫も馬も鶏も全てだ!!伊達を蔑ろにしたものを全て許すな!!老若男女は問わん!!殺せ!!!」

城の中に兵が雪崩のように入り込む。先陣を切るのは成実。槍を振り回し敵を次々と斬っていく。女中や子供、姫達の阿鼻叫喚、動物達の鳴き声、兵士の必死の叫びが城中を埋め尽くす。床は既に血まみれになっていた。政宗や小十郎も自ら刀を振るい、殺しを行う。陣羽織や兜、甲冑も、血にまみれた。

夕刻になって、やっとそれは終わった。
火が放たれた小手森城はもはや見る影もなく、完全に焼失していたが、定綱の首は逃がしてしまったらしい。

「逃げ足の早い奴…」
「…まぁ良い。これで見せしめが出来た」

政宗は自身より少し背の高い成実に振り向き、ニヤリと口の端を上げた。

「若いからと言って舐めるでないと言うことじゃ」

奥州の諸大名は、皆一様に伊達は甘い、と言うような印象を持っていた。しかしそれは先代伊達輝宗の人柄と、親子三代に渡る肉親の争いによるものである。政宗が当主となった今とは違う。
更に家中でも、政宗から離反しようと言う者が居なくなった。敵国だけでなく家中にも、逆らえばこうなると示す事が今回の目的だ。

「小十郎」
「は」
「今回、伊達は何人殺した?」
「…城内の者全て合わせて1100人以上は…」
「そうか…戻るぞ、皆」
「帰られましたら何を?」
「伯父上に手紙を。今回の事を報告する」

一行は、米沢に帰っていった。


1585年、今回のこの戦は『小手森城の撫で斬り』と言われ、奥羽地方初の徹底した大殺戮として長く伝えられることとなる。