複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【誰かコメントをお恵みください】 ( No.94 )
日時: 2012/08/18 09:04
名前: ナル姫 (ID: CN./FYLZ)  

伊達家では、政宗を強制隠居させようとした、義姫を中心とした家臣達が悪い夢でも見たように黙りこくっていた。戦上手で酷な若当主。今、彼に逆らう者は、もはや義姫と小次郎くらいだ。

「お帰りなさいませ、片倉様」
「出迎え感謝します。どうでした?何かありましたか?」
「あ…政道兄上に、馬の稽古をつけていただきました」
「政道様に…」
「はい」

小十郎は、少し難しそうな顔をした。軈て顔を上げて、蒼丸、と声を掛ける。

「私と共にいるなら…政道様と親しくするのは止めなさい」
「…え…」
「私は政宗様の従者。政宗様と政道様が仲良くしてくれるなら良いものを、それは難しい。対立すれば、確実に政宗様に味方します。…しかし、蒼丸、貴方はそうなれば板挟み。今のうちに、どちらにつくか決めておきなさい」
「…」

蒼丸の大きな目が見開かれた。まさか、そんな事を言われるなんて考えてもいなかった。今回の戦で、きっと二人の溝はまた深くなった。仲良くなんて、夢のまた夢か。

「…分かりました」
「政道様につくなら、私と関わるのも止めなさい」

背を向けて歩き出す小十郎の背中が、どんどん遠ざかる。夕方の、横から指す日差しが、廊下に立ち竦む蒼丸の影を長く伸ばしていた。


___



その頃政宗は、成実を連れて輝宗の隠居する館山に行っていた。

「…輝宗様、今回の戦、どう見ますか?」
「間違っておらぬな。奥州諸大名への見せしめ…大きな効果が出るであろう」

輝宗が目を細めて、政宗を見据えた。

「政宗」
「はい」
「これでもし…だ」

大内か畠山が降参したらどうする?彼は息子にそう訊いた。政宗の隣の成実と、輝宗の後ろに控えている遠藤基信も政宗に目を向けた。

「許す気は毛頭ございません」
「ほう…条件付きならどうじゃ?」
「降参するなら畠山…でしょうね」
「恐らくな」

政宗は少し下を向いて考える。軈て顔を上げて、その隻眼を閉じたまま静かに条件を語りだした。

「杉田川以南、油井川以北の地を没収し、両川に挟まれた、二本松を中心とする五ヵ村のみの領有を認める。嫡子の国王丸を人質として差し出す…こんなものですかね」

輝宗は腕を組んでふむ、と言った。息子の成長に少し笑っているようだ。

「儂は口を出す気はない。好きなようにやりなさい」
「はい」

輝宗は政宗の肩に手を置いた。

「伊達の事、任せたぞ政宗」
「…御意」


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翌日—…。
蒼丸の姉、お咲が、政宗によって米沢に招かれた。彼女は政宗の部屋に呼ばれ、それに従った。部屋には成実と小十郎がいる。

「お召しにより、金田哉人が長女咲、参りました」
「よう参ったな、咲姫。用件は喜多より伝わっておるか?」
「はい…岩城氏との結婚の話ですね」
「その事なのだがな」
「?」
「家臣の…晴千代の姉を当主に嫁がせるのはやはり彼方が気に食わんらしい。故に岩城の家臣の三谷家に嫁がせることとなった」
「承知いたしました」

政宗は立ち上がり、側にいる家臣と咲に言った。

「婚儀は近い。早々に支度をしろ」
「は」

咲は部屋から出た。廊下に出るとそこには。

「蒼丸…」
「…姉上」


___



「まさかアンタが政宗様の弟だったとはね…」
「僕も驚きました…今でも実感がないです」
「…でも私は、金田城にアンタが居ないから、私たちは兄弟じゃないって感じてる」
「…」
「じゃあね、蒼丸」

彼の部屋から出ていく姉が襖を閉めた。乾いた音が、部屋の静寂を際立たせていた…。