複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【誰かコメントをお恵みください】 ( No.96 )
- 日時: 2012/08/22 09:55
- 名前: ナル姫 (ID: CN./FYLZ)
あれから咲と蒼丸が会うことは無く、二人の距離は少し離れたまま、婚儀が始まった。今回の婚儀は婿が岩城家の家臣なだけに岩城家で行われることになり、咲、定行、晴千代、それから何人かの護衛する兵と籠持ちの兵が岩城家に向かった。
その頃蒼丸は、馬が乗れるようになった為、本格的に小十郎の小姓として働き始めていた。
「蒼丸ーこちらも頼みますよ」
「はいっ」
小姓の仕事は思ったより楽ではなく、今まで自分が使ってきた家臣達の気持ちを思い知る。今は小十郎の部屋を掃除しているが、広いし、細かい所は多数あるし、これだけでも結構な重労働だ。
「柱も拭いたし、畳の塵も取った、よし!片倉様!この部屋は終わりました!」
「ご苦労でした、あと…もう一つ頼んで宜しいですか?」
「はい」
蒼丸が返事をすると、小十郎は手招きで蒼丸をある部屋の前に呼んだ。ゆっくり襖を開けると、そこには。
「…甲冑…?」
「私の物です」
小十郎は柔らかい笑顔で蒼丸を見る。
「これを磨いてください」
「え!?しかし僕なんかが…」
「良いのですよ。この奥に、もう一つ甲冑があります。それも、お願いしますよ」
呆然とする蒼丸を後に、小十郎は去った。ゆっくりゆっくり、蒼丸は甲冑に近づく。丁度部屋の中心に置かれた甲冑。それは、力強く、だが何処か安心させる不思議な雰囲気を放っていた。兜は、半月の前立てに、護符があった。
「『愛宕山大権現守護所』…?」
(どういう意味だろう?)
取り敢えず兜を畳に置いて、蒼丸は丁寧に甲冑を磨き始めた。
___
「終わっ…たぁ!」
半刻過ぎて、やっと小十郎の甲冑を磨き終わる。蒼丸は大の字になって畳の上に寝そべった。だがまだ、奥の部屋にもあるのだ。休憩するのはそれからだ。
立ち上がり、奥の部屋へ続く襖を開く。
「…ッ!!」
思わず息を飲んでしまうほど美しく、立派に、力強く、華麗な漆黒に染められたそれと、金に輝く受け月の前立て。
(政宗様の…甲冑?)
こんなものを自分が磨いてしまって良いのか?近付くのさえ拒んでしまう…だが、彼は確実にその美しさに惹かれた。無意識のうちに、フラフラとそれに近づいた。手を伸ばす。嗚呼、手袋でもしなければ指紋がついてしまうのに。頭の片隅でそんなことを考えながら、触れてみる。触れた瞬間、彼の心臓が、小さく跳ねた気がした。
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畠山氏居城、二本松城—…。
「恐ろしい若造ですな…」
「—ッ!!義継殿!心変わりではありますないな!?」
此処では、小手森城を落とされた定綱と、畠山の当主、畠山義継が対談していた。畠山は政宗が家督を継いでから大内に味方し、今回城を落とされた定綱を匿っているのだ。
「小浜も、落とされた…隻眼の竜の従兄…伊達成実と言ったか」
「あやつは猛将だろう?戦場で指揮する力は弱いと見える」
「裏で指揮したのは竜よ…アレは戦場で暴れただけに過ぎん」
「竜もなかなかの暴れん坊と聞いたが?」
「ああ…自ら前線に立ち大声で指揮しておった。奴の声は高いからの…よく通ったわ。あんな小さな口からよく出るものよなぁ」
茶化した口調だが、彼等は既に危機的状況に陥っていた。ここからの形勢逆転は難しい。
(…大内殿を裏切り…恭順するしかない…のか)
義継は頭の隅でそんなことを考えた。