複雑・ファジー小説

Re: ナイト†ジョーカー【25日より本格始動!】 ( No.1 )
日時: 2012/05/26 14:33
名前: Kuruha ◆qDCEemq7BQ (ID: Zn8srJeM)

Episode1:俺の罪


 今動いているのは俺の身体だ。

 だけど、動かしているのは誰だ?

 だんだんと妹の方へ近づいているのは認識できる。だけど、動こうとしてそうしているのではない。

 にやりと口元を歪ませると、目の前にいる妹の首筋に噛み付く俺。ギュッと目を瞑って怯える妹の様子など気にも留めず、八重歯を突き立て、血を吸いはじめた。

 口の中に広がる鉄の味。あまり好きな味ではないけど、俺が生きるためには必要不可欠なものだ。

 やがて、妹は動かなくなった。それでも、血はまだなくなりはしない。衝動は止まらない、止まれない。

 血がなくなって、ぐったりとする妹をお姫様だっこのように抱える。軽い、冷たいとは感じられても、自分がそうしているのだとは思えない。

 血の気の引いた、青白い妹の顔を見て、俺の唇は弓状に反った。そこから、少量の血が零れ落ちる。

「あはははっ、あっははははははっ!!」

 狂ったように笑う。口はそう動いている。

 だけど、こうしたのは俺じゃない。俺だけど、俺がやったわけじゃない。

 誰だ? 俺の身体を使っているのは。

 心はただ悲痛に叫んでいる。

 あぁぁぁぁあぁぁあぁあああぁぁぁぁ……。


   *


「——っ!? ……ぁ、はぁ……」

 勢い良く身体が跳ね上がるような錯覚。寝ぼけ半分の意識で上半身だけを起こし、小さくため息を吐いた。

 カーテンの隙間から零れる光の先には、いくつかのダンボールが置いてあった。

 周りを見渡してみても、あまり他に物はない。あるのは本数の少ない本棚と勉強机くらいだ。もともと部屋に組み込まれているクローゼットの中身も、ダンボールの箱の中だ。

 見慣れない光景でも、確かにそこは見慣れた俺の部屋で、今日限りでここから出て行くことになっているはずの場所だった。

 枕元に置いてあった、かろうじて仕舞われていない目覚まし時計で確認すると、そろそろうるさいベルが鳴ってもおかしくない時間だった。

 どうやら俺はベッドで寝ていたようだ。そして、なんの面白みもなく、夢を見ていたのだろう。

 しかし……。

 また、この夢なのか。

 六年前の、俺の罪。今でも夢に見てしまう。

「……悠華」

 小さく妹の名を呟いてみるが、返事はない。……当たり前か。

 ——俺が、殺してしまったのだから。