複雑・ファジー小説
- Re: ナイト†ジョーカー / Episode2更新!! ( No.7 )
- 日時: 2012/05/26 14:47
- 名前: Kuruha ◆qDCEemq7BQ (ID: Zn8srJeM)
Episode3:十字架のネックレス
6年後の今日、世界は終焉を迎え、此処は滅ぶ。
慈悲は無い。救いも無い。しかし絶望も無い。
苦しむ必要は無い。嘆く必要も無い。
苦しむ時間などなく、終わる。
誰にも止められない。邪魔できない。
何をしたってお前達の勝手だ。
どうせあと6年で、全員死ぬのだから。
*
伊ノ坂高等教育機関。通称、伊ノ坂学園。
全寮制のこの学校が、最後の3ヶ月間を過ごす事になる場所だ。
曰く、入れることが奇跡な程、特殊な学校なのだとか。
今のところ、そんな雰囲気は伺えない。まだ校門近くではあるが。
午後四時近く。すでに放課後と呼べる時間帯なのに、俺は校舎に向かって歩いている。……寮へ向かう人たちから視線が痛い。
人の波を逆流しながら、人の目を避けながら歩く。
いや、実際は避けてはいない。どちらかというと避けられてると言っていいかもしれない。ひそひそと話す声が、かすかに届いていた。
そんな中歩くこと数メートル。俺を避けていたであろう人の群れは、突如として形を変えた。
別の誰かのために、道を開けはじめたのだ。
やがて、俺の視界に映る人間はとある女生徒だけになり、そいつはずんずんと俺の方まで歩いてきた。思わず立ち止まってしまう。
ハーフアップにされた、淡いクリーム色をした色素の薄い髪をなびかせる少女。そして、俺との距離は約数十センチメートルにまでなったところで、ようやく動きを止めた。
翡翠色の瞳が、俺を値踏みするように上下に揺れる。
「黒い髪……真紅の瞳……。貴方が、仁条由我くん?」
目の前の少女は言った。
「そう、だけど……」
俺がそう答えると、少女はにっこりと笑った。柔和な笑顔は、彼女の雰囲気にぴったりだと思った。
「私は城崎胡蝶。この学校の現生徒会長をしてるわ。よろしくね、由我くん」
そっと右手を差し出される。特に躊躇なく、その手を握り返す。数秒間の握手のあと、城崎は俺の後ろに回ると、首に何かを取り付けた。これは……ネックレス?
交差した部分に赤い水晶のついた、十字架のネックレスだった。
その瞬間、いつのまにか野次馬のように人だかりと化していた周りの生徒達のささやきが、一層大きなざわめきとなって押し寄せてきた。……逆に何を言っているのか聞き取れないほどに。
「これは私からのプレゼント。外さないでいてくれると嬉しいかな」
それじゃ、理事長室まで案内するわ、と言って、城崎は踵を返して、校舎の方へと歩きはじめた。ついていくため、俺も再び足を動かす。
そのプレゼントが、どういうものかも解らずに、ただただ受け入れて——